(添付、原審判決理由参照)
約束手形振出の意思表示が所持人の強迫によることを理由として同人に対し右意思表示の取消がなされた事例。
民法96条,手形法17条
判旨
強迫によって手形を振り出した者は、強迫を理由としてその手形行為を取り消すことができ、その取消しは善意の第三者にも対抗し得る。
問題の所在(論点)
手形振出行為が強迫によって行われた場合、民法96条1項に基づきこれを取り消すことができるか。また、その認定の妥当性が問題となる。
規範
意思表示が他人の強迫によって行われた場合、その意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)。手形行為においても、強迫による取消しは、詐欺による取消し(民法96条3項)とは異なり、善意の第三者に対抗できないとする明文の規定がないため、絶対的取消事由として善意の第三者に対しても対抗可能であると解される。
重要事実
上告人は、手形振出行為が自身の強迫によるものであると主張して争った。原審(第2審)は、証拠に基づき、本件手形振出行為が上告人自身の強迫によって行われた事実を認定した。また、上告人は供託金利息の請求権や諸経費の支出についても主張したが、原審は法律的根拠の欠如や証拠不十分を理由にこれらを退けた。
あてはめ
本件において、原審が認定した事実関係に照らせば、本件手形振出行為は上告人に対する直接的な強迫の結果としてなされたものである。このような場合、行為者の意思決定の自由が著しく阻害されていることから、民法96条1項の「強迫」に該当すると評価される。供託金利息等の主張については、法律上の根拠がなく、また証拠による裏付けも欠けるため、請求は認められない。
結論
本件手形振出行為は強迫によるものと認められ、上告人はこれを取り消すことができる。したがって、原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
手形法上の行為であっても、民法の強迫に関する規定が適用されることを確認した事例である。強迫による取消しは、詐欺(96条3項)と異なり善意の第三者に対抗できる絶対的取消事由として扱われるため、手形の流通性よりも表意者の保護が優先される場面として位置づけられる。
事件番号: 昭和27(オ)160 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出行為に民法上の錯誤(現95条)の規定を適用するとしても、その無効(現:取消し)をもって、善意の手形譲受人に対抗することはできない。 第1 事案の概要:上告人(振出人)は、手形の振出行為に錯誤(旧民法95条)があったとして、その無効を主張した。これに対し、被上告人(被控訴人)は、上告人から直…