一 手形の書替は、旧手形を現実に回収して発行する等特別の事情のない限り、単に旧手形債務の支払を延長するためになされるものと解すべきである。 二 旧手形が新手形に書き替えられても、旧手形は当然に無効となるものではない。 三 旧手形債務の支払を延長するために手形の書替が行われたときは、新手形の所持人は、新手形のみにて手形金の請求をすることができる。 四 手形の書替にあたり、旧手形が返還されるものと誤信して新手形を振出したとしても、手形振出の要素に錯誤があるということはできない。
一 手形書替の性質 二 手形書替後における旧手形の効力 三 手形書替後における手形金の請求方法 四 手形行為と民法第九五条の適用
手形法1条,民法95条
判旨
書替手形の発行は原則として旧手形債務の支払猶予という人的抗弁を生じさせるに留まり、振出人が「旧手形との引換え」や「譲渡禁止」を誤信して手形を振り出したとしても、それは動機の錯誤に過ぎず手形行為の要素の錯誤には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 書替手形の振出が旧債務の消滅を伴うものか、単なる支払猶予か。2. 裏書譲渡されない等の誤信が手形行為の「要素の錯誤」に該当するか。3. 手形法17条但書の「害することを知りて」の意義。
規範
1. 書替手形の特質:旧手形を現実に回収して発行する等の特段の事情がない限り、単に旧手形債務の支払を延長(支払猶予)する性質を有する。2. 手形行為の錯誤:手形振出行為の「要素の錯誤」とは、行為の主要な内容自体に錯誤がある場合を指し、振出の縁由(動機)に錯誤がある場合は含まれない。3. 悪意の抗弁:手形法17条但書の「害することを知りて」とは、単に抗弁事実の存在を知る(悪意)だけでは足りず、手形債務者を害する意図を要する。
重要事実
上告人(振出人)は、被上告人(所持人)との直接の人的関係はないが、中間者との間で書替手形として本件手形を振り出した。その際、上告人は「本件手形が他に裏書譲渡されないこと」および「旧手形と引換えに本件手形が交付されること」を当然の前提として誤信していた。その後、本件手形が被上告人に譲渡されたため、上告人は要素の錯誤による無効、および支払猶予の人的抗弁、さらに被上告人が譲渡禁止の約束を知っていた(悪意)ことを理由に支払を拒絶した。
あてはめ
1. 特段の事情がない本件では、書替手形は支払猶予の人的抗弁を生じさせるに過ぎず、振出人が当然に免責される法理はない。2. 上告人が主張する「裏書譲渡されない」「旧手形が返却される」との誤信は、振出行為の主要な内容そのものではなく、振出に至る縁由(動機)に関する錯誤に過ぎないため、要素の錯誤には当たらない。3. 被上告人が譲渡禁止の特約を知っていたとしても、直ちに「債務者を害することを知って」取得したとは認められない。
結論
本件手形の振出に要素の錯誤は認められず、また支払猶予は人的抗弁に過ぎないため、切断される。被上告人に対する悪意の抗弁も成立しないため、上告人は手形金の支払義務を免れない。
実務上の射程
手形行為の独自性を重視し、錯誤の範囲を「主要な内容(文言等)」に限定して動機の錯誤を排除した重要な判例である。答案上は、手形行為の有効性(錯誤・公序良俗)が問われた際や、人的抗弁の切断(17条)の解釈において、悪意の定義とともに引用すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)1263 / 裁判年月日: 昭和29年3月11日 / 結論: 棄却
期間後裏書の被裏書人に対しては、その裏書の裏書人に対する人的抗弁をもつて対抗することができるが、右裏書人の前者に対する人的抗弁をもつて対抗することはできない。