割賦売買契約における所有権留保中の物件の喪失による損害額の認定につき理由不備の違法があるとされた事例
判旨
所有権留保売主が第三者の不法行為により目的物の所有権を喪失した場合の損害額は、原則として喪失時における物件の時価相当額である。実質的な担保権としての性質を理由に未払代金債権額を限度とするには、契約内容に照らした十分な理由の説示を要する。
問題の所在(論点)
所有権留保売買において、第三者が目的物を処分し売主の所有権を喪失させた場合、売主が請求できる損害賠償額の算定基準は、物件の時価か、あるいは残代金債権額か。
規範
不法行為に基づき物件の所有権を喪失せしめられた者が被る損害額は、特段の事情のない限り、物件喪失時における物件の時価相当額である。所有権留保が実質的に代金債権の担保を目的とするものであっても、その担保権の内容や契約関係を十分に考慮せず、直ちに未払代金額を損害の限度とすることはできない。
重要事実
原告(上告人)は、代金18万5000円の分割払で軽二輪自動車をDに売り渡し、代金完済まで所有権を留保した。Dは代金完済前に、所有権留保の事実を知っている被告(被上告人)に本件物件を質入れし、被告はこれを善意の第三者に売却した。原告は、被告の処分行為により所有権を喪失したとして、処分時の時価である12万円相当の損害賠償を求めた。原審は、所有権留保は実質的に担保的意味を持つとして、損害額を未払代金額の約2万5000円に限定した。
あてはめ
所有権者がその権利を奪われた場合の損害は、原則として物件の時価とされるべきである。原審は所有権留保を実質的な担保権と捉え、損害額を「物件時価」と「担保される未払代金」のいずれか低い方の額に制限したが、これは所有権という法的形式を軽視するものである。仮に実質的観点から損害額を減額し得るとしても、その根拠となるべき売主・買主間の具体的な契約内容(担保権の具体的性質等)を十分に検討・説示していない以上、直ちに時価を下回る未払代金額をもって損害額と認定することは、理由不備といわざるを得ない。
結論
損害額を未払代金債権額に限定した原判決を破棄し、時価を基礎とした損害算定の要否等を再審理させるため、本件を差し戻す。
実務上の射程
所有権留保の担保的機能を重視しつつも、形式上の所有権侵害に対する賠償額を当然に残代金に限定しない姿勢を示した。答案上は、物権侵害の損害賠償における「原則時価」の原則を確認する際に引用する。ただし、近時の実務や学説では清算義務の観点から残代金相当額への制限が議論されることもあるが、本判決は原則論を維持し、減額には個別具体的な特段の事情の主張立証が必要であることを示唆している。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…