判旨
運送物の滅失・毀損による損害額の算定において、当該物件に価格統制がある場合には、特別の事情のない限り、統制価格をもって通常生ずべき損害額と解すべきである。いわゆる闇価格を基準とすることは、違法行為を公認する結果となるため許されない。
問題の所在(論点)
運送人の債務不履行(運送物の滅失等)に基づく損害賠償額を算定する際、価格統制が存在する物件の「時価」を、統制価格とすべきか、あるいは闇価格を含む実勢価格とすべきか。
規範
運送物の滅失による損害額は、原則として引渡しを受けるべき日における到達地の市場価格(時価)を基準とする。もっとも、当該物件に価格統制がある場合、特段の事情のない限り、統制価格を超える価格での取得を前提とすることは、違法な闇取引を是認することになるため、当該統制価格をもって通常生ずべき損害額(民法416条1項参照)と解するのが相当である。
重要事実
上告人が被上告人に対し、運送委託契約に基づき貨物の運送を依頼したが、運送過程において損害が発生した。本件物件には物価統制令に基づく価格統制がなされていた。上告人は、統制価格ではなく実際の取得に要する費用等(闇価格を含む実勢価格)に基づく損害賠償を求めたが、原審は統制価格を基準として損害額を算定したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
損害額の算定基準は、通常であれば到達地において同種物件を取得できる価格であるべきところ、価格統制がある物件については、営利を目的としない例外的な取引等を除き、統制価格を超える価格での取引は違法行為(闇取引)に該当する。もし統制価格以上の損害額を認めれば、裁判所が違法な闇価格や統制違反行為を公認・是認する結果となり、法の秩序に反する。したがって、本件のように統制価格が存在する場合には、その統制価格が正当な算定基準となる。
結論
運送物の損害額算定において、統制価格を基準とした原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
損害賠償における「時価」の意義に関する重要判例である。市場価格が公序良俗や強行法規に反する「闇価格」を形成している場合、それを賠償額の基礎に置くことはできないというリーディングケースとして活用できる。答案上は、民法416条1項の「通常生ずべき損害」の具体的算定において、違法な価格を基準とすることの是非が問われる場面で引用すべきである。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…