所有権留保売買の目的動産につき、買主から譲渡担保権の設定を受けた者が、売主に対し、買主の未払残代金を支払う旨申し入れ、その額の調査に要する期間右の動産の処分を猶予するよう要請し、売主がこれに応じるかのような態度を示していたときでも、売主が猶予する旨約したのでない限り、売主が右動産を他に処分しても右譲渡担保権の侵害にはあたらず、売主は、右譲渡担保権者に対しその担保権の喪失による損害を賠償する責を負わない。
所有権留保売買の売主がその目的動産を処分する行為が右動産につき買主の設定した譲渡担保権の侵害にあたらないとされた事例
民法128条,民法134条,民法342条,民法555条,民法709条
判旨
所有権留保付売買の買主から譲渡担保権の設定を受けた者は、売主に対する代金完済前には売主に対して権利を主張できず、売主が処分の猶予を約束したなどの特段の事情がない限り、売主による目的物の処分を権利侵害として不法行為に基づく損害賠償を請求することはできない。
問題の所在(論点)
所有権留保付売買の買主から譲渡担保権の設定を受けた者が、代金完済前に売主が行った目的物の処分につき、権利侵害を理由として不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求できるか。売主が示した「処分の猶予に応じるかのような態度」が権利の濫用等に該当するかが問題となる。
規範
所有権留保の特約がある場合、代金が完済されるまで所有権は売主に帰属する。この状態において、買主から目的物の譲渡担保権の設定を受けた第三者は、売主が目的物を処分する前に代金を完済(または提供)しない限り、売主に対して当該権利を主張できない。また、単に売主が処分の猶予に応じるかのような態度を示したにとどまり、法的拘束力を有する約束が成立していない場合は、売主が権利行使として目的物を処分しても、譲渡担保権の喪失を理由とする損害賠償責任は生じない。
重要事実
上告人はDに対し、所有権留保特約付きで本件動産を売却した。Dは代金完済前に、被上告人に対し本件動産を譲渡担保に供し、占有改定による引渡しを行った。その後Dが代金支払を怠ったため、被上告人は上告人に対し、残債務を確認するまで処分の猶予を要請した。上告人はこれに応じるかのような態度を示したが、翌日に本件動産を第三者Fに売却し現実の引渡しを完了した。被上告人は、譲渡担保権を取得できる地位を侵害されたとして不法行為に基づき損害賠償を請求した。
あてはめ
本件において、上告人はDの代金支払遅滞により、いつでも本件動産を処分しうる正当な権限を有していた。対して、被上告人は代金完済前であり、上告人に対して譲渡担保権を対抗できる地位にない。上告人は処分の猶予を要請された際、応じるかのような態度を示したが、法的意味を有する約束にまでは至っていない。したがって、両者の法律関係に変更はなく、上告人の処分行為は正当な権利行使の範囲内である。信頼を裏切られたことによる費用の賠償問題は生じうるとしても、もともと上告人に主張できない譲渡担保権自体の喪失を損害と捉えることはできない。
結論
被上告人の請求は棄却される。法的拘束力のある合意がない以上、売主の処分行為は被上告人の譲渡担保権を侵害する不法行為にはあたらない。
実務上の射程
所有権留保がある場合の譲渡担保権者の地位の脆弱性を端的に示す判例である。不法行為の成否を検討する際、侵害されたとされる「権利」の有無・対抗要件を厳格に判断しており、単なる期待や信頼のみでは「譲渡担保権相当額」という多額の損害賠償は認められない。実務上は、信義則上の付随的義務違反による信頼利益の賠償可能性との区別に留意して活用すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)740 / 裁判年月日: 昭和40年3月11日 / 結論: 棄却
代金完済まで所有権を売主に留保する特約で売り渡された立木を伐採する者は、当該立木に買主の明認方法が施されているからといつて、真の所有者を確認したうえで、伐採すべき注意義務がないとはいえない。