債務者の代表者が所在不明となつたのち、譲渡担保権者が動産たる目的物件を債務者のもとから無断で搬出取戻し、これを弁済期日まで自ら保管していた行為は、その搬出取戻しが債務者の抵抗を実力で排除してされたとか、債務者側で目的物を適正に占有管理していた等、特段の事情のない限り、判示のような事実関係のもとでは、不法行為にあたらない。
譲渡担保権者が弁済期前に目的物件を債務者のもとから無断で搬出した行為が不法行為にあたらないとされた事例
民法369条,民法709条
判旨
譲渡担保権者が弁済期前に目的物を無断で搬出し自ら保管する行為は、実力による占有排除や債務者の正常な業務運営の阻害などの特段の事情がない限り、不法行為を構成しない。
問題の所在(論点)
譲渡担保権者が、弁済期前かつ使用貸借期間中に、債務者の承諾なく目的物を搬出し自ら保管する行為が、債務者に対する不法行為(民法709条)を構成するか。
規範
譲渡担保契約において債務者が目的物を使用保管する旨の約定がある場合でも、弁済期前の目的物搬出・保管行為が不法行為(民法709条)となるかは、以下の特段の事情の有無により判断される。(1)搬出取戻しが債務者側の抵抗を実力をもって排除してなされたこと、(2)債務者から授権された者が適正に占有管理していたこと、(3)債務者が倒産等にかかわらず物件を使用して業務を正常に運営し得る状況にあったこと。これらがない限り、違法性は否定される。
重要事実
債務者D社は、債権者(被上告人ら)との間で機械類の譲渡担保契約を締結し、弁済期を昭和43年9月21日、それまで目的物を無償で借り受ける約定とした。しかし、D社は同年7月1日に不渡りを出して倒産し、代表者も行方不明となった。被上告人らは、弁済期前である同年7月初旬及び8月、D社の承諾を得ずに目的物を搬出し、弁済期まで保管した。その後、D社の弁済がないため、被上告人らは目的物を売却処分し債権に充当した。
あてはめ
本件では、D社が倒産し代表者が行方不明という状況にあり、被上告人らによる搬出がD社側の実力抵抗を排除してなされた形跡はない。また、D社が倒産後も本件物件を使用して業務を正常に運営し得る状況にあったとも認められない。したがって、債務者の使用収益権を侵害する特段の事情は認められず、搬出・保管行為に違法性はない。また、弁済期徒過後の売却処分は、譲渡担保権の実行として正当な権能に基づくものである。
結論
被上告人らの行為は、不法行為に基づく損害賠償の責めを負わせるべきものとはいえず、売却処分も適法である。上告棄却。
実務上の射程
譲渡担保における「弁済期前の期限の利益」の保護範囲を限定した判例である。債務者が事実上倒産し、目的物の適正な管理や利用が期待できない状況下では、債権者による自力救済的な保全行為を広く容認する実務上の指針となる。ただし、「実力行使」がある場合には違法となり得る点に注意を要する。
事件番号: 昭和56(オ)542 / 裁判年月日: 昭和58年3月18日 / 結論: 破棄自判
所有権留保売買の目的動産につき、買主から譲渡担保権の設定を受けた者が、売主に対し、買主の未払残代金を支払う旨申し入れ、その額の調査に要する期間右の動産の処分を猶予するよう要請し、売主がこれに応じるかのような態度を示していたときでも、売主が猶予する旨約したのでない限り、売主が右動産を他に処分しても右譲渡担保権の侵害にはあ…