船舶所有者がその所有の船舶につき第三者が商法八四二条八号所定の先取特権を有することを知りながらこれを発航させて右先取特権を消滅させるに至つたとしても、右船舶所有者が船舶発航前に先取特権者の権利行使を妨げる行為をしたなどの特段の事情のない限り、右発航行為をもつて先取特権者の権利を違法に侵害した不法行為にあたるということはできない。
船舶の発航により商法八四二条八号所定の先取特権を消滅させた行為が不法行為にあたらないとされた事例
民法709条,商法842条8号,商法847条2項
判旨
船舶所有者が先取特権の存在を知りつつ船舶を発航させ、それによって先取特権を消滅させたとしても、特権行使を妨げる等の特段の事情がない限り、不法行為は成立しない。
問題の所在(論点)
船舶所有者が先取特権の存在を認識しながら船舶を発航させ、当該特権を消滅させた場合、その行為は先取特権に対する不法行為(民法709条)となるか。
規範
商法842条8号(現842条1項8号)所定の先取特権は、船舶の発航により消滅する(同法847条2項)。このため、船舶所有者が先取特権の存在を知っていたとしても、単に船舶を発航させた行為が直ちに権利侵害として不法行為を構成するわけではない。不法行為が成立するためには、発航前に所有者が先取特権者の権利行使を妨げる行為をしたなどの「特段の事情」を要する。
重要事実
上告人(先取特権者)は、被上告人(船舶所有者)の船舶に対して商法上の先取特権を有していた。被上告人は、上告人が先取特権を有していることを知りながら、当該船舶を発航させた。その結果、商法847条2項の規定に基づき上告人の先取特権は消滅した。上告人は、被上告人が故意に特権を消滅させたとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
本件において、被上告人は上告人の先取特権を知りつつ船舶を発航させている。しかし、商法上の先取特権は本来、発航前にこれを行使すべき性質のものであり、特権者が自由な選択により権利実行をしない間に発航によって消滅することは、制度上の予定された帰結である。本件では、船舶所有者が発航前に上告人の権利行使を具体的に妨害したといった「特段の事情」は認められない。したがって、単なる発航行為は違法な権利侵害とは評価できない。
結論
被上告人の発航行為は不法行為にあたらず、損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
船舶先取特権の消滅という強力な法定効果を不法行為法で修正することに慎重な姿勢を示したもの。答案上では、法定の権利消滅事由がある場合に、その権利を消滅させる行為が「違法」と評価されるためには、単なる主観的認識を超えた「行使妨害」等の特段の事情が必要であることを論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和28(オ)518 / 裁判年月日: 昭和28年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】記録上存在しない期日変更申請の不許可等を理由として原審の手続違背を主張することは、上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原審において期日変更申請書を提出したにもかかわらず、これが認められなかった等として、原審の手続に違憲・違法があると主張して上告した。しかし、訴訟記録を確認したところ…