賃借人甲の居住する家屋およびその敷地を所有する乙が、他へ移築しその敷地を使用しない特約付で右建物を丙に譲渡すると同時に、右敷地の持分を丁に譲渡した場合には、乙丙間の敷地使用券を発生せしめない旨の合意にもかかわらず、丁は、甲に対して建物から退去してその敷地を明け渡すことを請求することができない。
賃借人の居住する建物およびその敷地の所有者から右建物の敷地の持分を買い受けた者が建物賃借人に対し建物からの退去を請求できないとされた事例
民法1条,民法601条
判旨
建物賃借人が現に敷地を使用している状況で、土地所有者が第三者に建物を売却する際、特段の事情なく敷地賃借権を発生させない合意をした場合、土地所有者は敷地利用権の不存在を建物賃借人に対抗できず、建物退去・土地明渡請求は認められない。
問題の所在(論点)
建物賃借人が存する建物の売買において、売主(土地所有者)と買主(建物譲受人)との間で、建物譲受人に敷地利用権を取得させない合意がなされた場合、土地所有者は建物賃借人に対して敷地利用権の欠如を主張して明渡しを請求できるか。建物賃借人の敷地使用権の対抗力が問題となる。
規範
建物賃借人の敷地使用権は建物所有者の土地利用権に依存するが、建物所有者が賃借人の意向を無視して土地賃借権を放棄し、または合意解除した場合には、信義則(民法1条2項)等の法理に基づき、その消滅を建物賃借人に対抗できない。この理は、第三者に賃貸中の建物を売買する際、建物賃借人が現に敷地を使用しているにもかかわらず、特段の事情なく建物買受人に土地利用権を発生させない合意をした場合にも妥当する。
重要事実
Dは自己所有の建物(本件家屋)を上告人に賃貸し、その後本件家屋とその敷地(本件宅地)をE社に譲渡した。E社は、本件宅地の共有持分を被上告人の先代Fに売り渡すと同時に、本件家屋をGに売り渡した。その際、Gは家屋を「移築する特約」で買い受けたため、本件宅地を利用する権利を有しないこととされた。被上告人は、建物の買主Gに敷地利用権がないことを理由に、建物賃借人である上告人に対し、建物退去および土地明渡しを求めて提訴した。
あてはめ
本件では、上告人が現に家屋を賃借し居住している状況下で、E社は家屋をGに売却している。その際、Gに移築特約を付して敷地利用権を発生させない合意をしているが、これは建物所有者が建物賃借人の意向を無視して土地利用権を消滅させる合意をしたのと同視できる。被上告人(E社の承継人)において「特段の事情」を主張立証していない以上、かかる合意は上告人に対抗できない。したがって、上告人は依然として敷地使用権を土地所有者側に対抗し得る状態にある。
結論
被上告人の請求は認められない。上告人は、敷地使用の権利を土地共有者である被上告人に対抗できるため、建物退去および土地明渡しの義務を負わない。
実務上の射程
土地・建物が同一所有者に属する場合の建物賃貸借(いわゆる法定地上権の成否が問題となる場面に近い事案)や、建物譲渡に伴う土地利用権の処理において、建物賃借人の保護を図る際のリーディングケースとなる。特に、実質的に賃借人の地位を害するような土地・建物所有者間の合意の効力を制限する「信義則」の適用場面として重要である。
事件番号: 昭和39(オ)1036 / 裁判年月日: 昭和42年4月28日 / 結論: 棄却
家屋賃借人の唯一の相続人が行先不明で生死も判然としない場合において、家屋賃借人の内縁の夫が賃借人の死亡後もひきつづき家屋に居住する等判示の事情があるときは、内縁の夫は、家屋の居住につき右相続人の賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる。