家屋賃借人の唯一の相続人が行先不明で生死も判然としない場合において、家屋賃借人の内縁の夫が賃借人の死亡後もひきつづき家屋に居住する等判示の事情があるときは、内縁の夫は、家屋の居住につき右相続人の賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる。
家屋賃借人の内縁の夫が賃借人の死後において家屋に居住できるとされた事例
民法601条,民法896条
判旨
建物の賃借人と同居していた内縁の夫は、賃借人の死亡後、賃借権を相続した相続人に対し、従前の家族共同体の一員として賃借権を援用し、建物居住権を対抗することができる。
問題の所在(論点)
賃借人が死亡し、同居していない相続人が賃借権を承継した場合において、賃借人と同居していた内縁の配偶者は、賃貸人からの明渡請求に対し、相続人が承継した賃借権を援用して対抗することができるか。
規範
建物の賃借人の同居人が、賃借人の家族共同体の一員として居住していた場合、賃借人の死亡により相続人が賃借権を承継した後も、特段の事情のない限り、当該同居人は相続人が承継した賃借権を援用して貸主に対し居住する権利を対抗できる。
重要事実
Dは昭和15年から本件家屋を賃借し、被上告人(Dの内縁の夫)は昭和26年からDと同棲し、互いに助け合って生活していた。Dが病床に伏してから死亡するまでの約3年間も、被上告人はその面倒を見てきた。Dの死亡後、唯一の相続人として行方不明の姉Eが賃借権を相続した。被上告人はDの死後も本件家屋に居住し続けているが、貸主である上告人が家屋の明け渡しを求めた。
あてはめ
被上告人はDの内縁の夫であり、10年以上にわたり同棲して互いに扶助し合うなど、実質的に家族としての実態を有していた。被上告人は「Dの家族共同体の一員」として本件家屋に居住していたといえる。Dの死亡により相続人Eが賃借権を承継した後も、被上告人が居住を継続することを否定すべき「特別の事情」は認められない。したがって、被上告人は相続人Eが承継した賃借権を援用することで、上告人に対し居住の正当性を主張し得る。
結論
被上告人は上告人に対し、相続人が承継した賃借権を援用して本件家屋に居住する権利を対抗できるため、明け渡しを拒むことができる。
実務上の射程
借地借家法36条(居住用建物の賃借権の承継)が適用されない、相続人が存在する場合の処理に関するリーディングケースである。答案上は、相続人が賃借権を取得することを前提とした上で、内縁の配偶者による「賃借権の援用」という構成で居住権を保護する際に用いる。事実認定では「家族共同体の一員」といえるほどの緊密な生活実態(扶助関係や同居期間)があるかが重要となる。
事件番号: 昭和39(オ)126 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: 破棄自判
賃借人甲の居住する家屋およびその敷地を所有する乙が、他へ移築しその敷地を使用しない特約付で右建物を丙に譲渡すると同時に、右敷地の持分を丁に譲渡した場合には、乙丙間の敷地使用券を発生せしめない旨の合意にもかかわらず、丁は、甲に対して建物から退去してその敷地を明け渡すことを請求することができない。