家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない。
家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無
民法601条,民法896条
判旨
建物の賃借人が死亡した場合、相続権のない内縁の妻は相続人の賃借権を援用して居住する権利を有するが、賃借人そのものの地位を承継するわけではなく、相続後の賃料支払債務も当然には負わない。
問題の所在(論点)
相続権のない内縁の妻は、賃借人の死亡により賃借人の地位を承継し、賃貸人に対して直接賃料支払義務を負うか。
規範
建物の賃借人が死亡した際、その内縁の妻は相続人ではないため、共同賃借人の地位を当然に取得するものではない。もっとも、相続人が賃借権を相続した場合、内縁の妻は相続人の有する賃借権を援用することにより、賃貸人に対して当該建物に居住する権利を主張することができる。
重要事実
本件建物の賃借人Dが死亡し、その相続人として子であるA2ら4名が賃借権を相続した。Dと同居していた内縁の妻A1は、Dの死後も建物に居住を継続していた。賃貸人の相続人である被上告人は、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除し、A1およびA2らに対し建物の明渡しと、D死亡後の未払賃料および解除後の不法占有期間の損害金の支払いを求めて提訴した。原審は、A1がDの死亡により他の相続人とともに共同賃借人の地位を承継したと判断したため、A1が上告した。
あてはめ
A1は亡Dの内縁の妻であり、相続人ではない。したがって、Dの死亡によって賃借人としての地位を直接承継するわけではなく、他の共同相続人と並んで共同賃借人となることもない。そのため、賃貸借契約が存続していた期間(昭和33年から35年まで)の賃料支払義務は、賃借人の地位を相続したA2ら相続人が負うべきものであり、A1が負うものではない。ただし、相続人が取得した賃借権を援用して居住する権利自体は認められる。また、本件では有効に契約解除がなされているため、解除後の不法占有に基づく損害金については、占有の事実に基づき支払義務を免れない。
結論
内縁の妻は賃借人の地位を承継しないため、相続後の賃料支払義務を負わない。ただし、相続人の賃借権を援用して居住を継続する権利は有し、契約解除後の不法占有による損害賠償義務は免れない。
実務上の射程
内縁の配偶者の居住権保護に関するリーディングケースである。答案上は、内縁の妻に賃借権の直接の承継を認めず「援用」という構成をとる点、および権利の裏返しである賃料債務は負わないという論理的一貫性に留意して論述する。
事件番号: 昭和39(オ)1036 / 裁判年月日: 昭和42年4月28日 / 結論: 棄却
家屋賃借人の唯一の相続人が行先不明で生死も判然としない場合において、家屋賃借人の内縁の夫が賃借人の死亡後もひきつづき家屋に居住する等判示の事情があるときは、内縁の夫は、家屋の居住につき右相続人の賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる。