家屋賃借人の事実上の養子として待遇されていた者が賃借人の死後も引き続き家屋に居住する場合、賃借人の相続人らにおいて養子を遺産の事実上の承継者と認め、祖先の祭祀も同人に行わせる等(当審判決理由参照)の事情があるときは、その者は、家屋の居住につき、相続人らの賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる。
家屋賃借人の事実上の養子として待遇されていた者が賃借人の死後において家屋に居住できるとされた事例。
民法601条,民法896条
判旨
賃借人と実質的に母子同様の家族共同体としての生活関係にあった者は、賃借人が死亡しその賃借権を相続人が承継した場合であっても、賃借人の承継した賃借権を援用して賃貸人に対し居住する権利を対抗できる。
問題の所在(論点)
賃借人の死亡後、相続人ではないが家族同様の共同生活を送っていた同居人が、相続人の承継した賃借権を援用して賃貸人に居住権を主張できるか。
規範
賃借人と事実上の養親子関係にあり、賃借人を中心とする家族共同体の一員として同居していた者は、賃借人の有する賃借権を援用して賃貸人に対しその居住を対抗し得る。この法律関係は、賃借人の死亡により相続人が賃借権を承継した後も、当該居住者が家族共同体の一員としての地位にある限り、同様に維持される。
重要事実
被上告人は亡賃借人Dの内弟子として約10年前から同居し、子のなかったDと事実上の母子関係を築いていた。Dの死亡後、親族らの了承を得て被上告人が喪主を務め、遺産や祭祀を継承し芸名の襲名も許された。Dには別に相続人がいたが、被上告人は引き続き本件家屋に居住していたところ、賃貸人(上告人)から明渡しを求められた。
あてはめ
被上告人は長年Dと同居し、晩年は周囲も認める事実上の母子関係に発展していた。D死亡時の葬儀の経緯や遺産・祭祀の承継事実から、被上告人はDを中心とする家族共同体の一員であったといえる。そうであれば、Dの賃借権を援用して本件家屋に居住する正当な権限を有しており、この援用関係は相続人が賃借権を承継したからといって消滅するものではない。
結論
被上告人は相続人が承継した賃借権を援用して、賃貸人に対し居住する権利を対抗できる。したがって、賃貸人による明渡し請求は認められない。
実務上の射程
相続人ではない内縁の配偶者や事実上の養子が、相続人の承継した賃借権を「援用」して居住を継続できるとする構成(援用説)を確立した判例である。答案上は、相続人が賃借権を承継することを前提に、同居人の居住権を保護する論理として、権利の濫用や信義則の具体化として位置づけて記述する。
事件番号: 昭和32(オ)304 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の対抗力ある賃借権者は、賃貸人の承諾を得て賃借権を譲り受けた場合、自己の使用収益権を保全するため、賃貸人の有する所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、無権原の占有者に対し建物の明渡しを請求することができる。 第1 事案の概要:建物の賃借人Eは、被上告人(債権者)に対する貸金債務を担保する…