判旨
建物の対抗力ある賃借権者は、賃貸人の承諾を得て賃借権を譲り受けた場合、自己の使用収益権を保全するため、賃貸人の有する所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、無権原の占有者に対し建物の明渡しを請求することができる。
問題の所在(論点)
賃貸人の承諾を得て有効に賃借権を取得した賃借人が、自己の賃借権を保全するために、賃貸人の有する所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使することができるか(民法423条の要件充足性)。
規範
不動産賃借権者が、賃貸人に対し対抗し得る賃借権を取得した場合には、当該賃借権者は自己の使用収益権を保全するため、民法423条の債権者代位権に基づき、目的物の所有者(賃貸人)が正権原なき占有者に対して有する所有権に基づく返還請求権(明渡請求権)を代位行使することが認められる。
重要事実
建物の賃借人Eは、被上告人(債権者)に対する貸金債務を担保するため、本件建物の賃借権を被上告人に譲渡し、建物の所有者Dはこれを承諾した。一方で、Eは上告人らの先代にも賃借権を二重譲渡していたが、所有者Dは上告人側への譲渡については承諾を拒んだ。被上告人は、正権原のない占有者である上告人らに対し、所有者Dが有する所有権に基づく建物明渡請求権を代位行使した。
あてはめ
まず、賃借権の譲渡は賃貸人Dの承諾があるため、民法612条1項の制限は解除されており、被上告人はDに対抗し得る正当な賃借権を取得したといえる。次に、上告人側は所有者の承諾を得ておらず、本件建物を占有する正当な権原を有しない。この場合、賃借権者たる被上告人がその使用収益権を確保するためには、所有者Dの明渡請求権を行使する必要性が認められる。したがって、被上告人はDに代位して、無権原の占有者である上告人らに対し建物の明渡しを求めることができると解される。
結論
被上告人による代位請求は認められる。正当な賃借権者は、賃貸人の所有権に基づく明渡請求権を代位行使して、無権原の占有者の排除を求めることができる。
実務上の射程
賃借権に基づく妨害排除の論点において、対抗要件(登記や引渡し)を備えた賃借権者による「賃借権自体に基づく妨害排除」が認められる(民法605条の4等)以前のリーディングケースである。答案上は、債権者代位権(423条)の転用事例として、被保全債権(賃借権)と権利行使の必要性を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和32(オ)532 / 裁判年月日: 昭和34年9月3日 / 結論: 棄却
不動産を売渡担保に供した者は、担保権者が約に反して担保不動産を他に譲渡したことにより担保権者に対して取得した担保物返還義務不履行による損害賠償債権をもつて、右譲受人からの転々譲渡により右不動産の所有権を取得した者の明渡請求に対し、留置権を主張することは許されない。