内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情(原判決理由参照)があるときは、右請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである。
内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人のした家屋明渡請求が権利の濫用にあたるとされた事例。
民法1条3項
判旨
内縁の夫の死後、その相続人が内縁の妻に対して建物の明渡しを求めることは、身分関係、紛争の経緯、建物の使用状況および双方の必要度等の諸事情に照らし、権利の濫用にあたる場合がある。
問題の所在(論点)
内縁の夫の相続人による、内縁の妻に対する建物明渡し請求が、民法1条3項の権利濫用として制限されるか。特に、被上告人に法的居住権が認められない場合であっても、権利行使が制限され得るかが問題となる。
規範
所有権に基づく返還請求であっても、その行使が当事者間の身分関係、紛争のいきさつ、建物の使用状況および各当事者の必要度等の諸事情に照らし、正当な理由を欠くと認められる場合には、民法1条3項により権利の濫用として許されない。
重要事実
上告人の父と被上告人(女性)は内縁関係にあった。父の死亡により建物の所有権を相続した上告人が、同建物に居住し続ける被上告人に対し、建物明渡しを求めて提訴した。原審は、上告人と被上告人の身分関係、紛争の経緯、両者の建物使用状況および必要度を総合的に考慮し、上告人の請求を権利の濫用と判断した。
あてはめ
本件では、上告人と被上告人の間の身分関係(亡父の相続人と内縁の妻)や、建物を巡る紛争のいきさつが重視される。また、被上告人が長年居住してきたという使用状況や、生活の拠点としての必要度に対し、上告人側の必要性がそれを上回るかといった具体的事実が検討された。被上告人に実体法上の具体的な居住権が認められないとしても、これらの諸事情を総合考慮すれば、所有権に基づく明渡し請求は、社会通念上相当な範囲を逸脱した権利の行使といえる。
結論
上告人の本件建物明渡請求は権利の濫用に該当し、棄却されるべきである。
実務上の射程
内縁関係解消時の居住権保護を「権利濫用」の法理で解決する典型例。被告側に積極的な占有権原(賃借権等)がなくとも、相続人からの請求を排斥できる点に実務上の意義がある。ただし、あくまで「請求が許されない」という消極的な効果にとどまり、内縁の妻に法律上の同居義務や永久的な居住権を創設するものではない点に注意が必要である。
事件番号: 昭和37(オ)480 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
(省略)