判示のごとき事情のもとでは、義姉に対する所有権に基づく家屋明渡の請求は、権利の濫用であつて許されない。
家屋明渡の請求が権利濫用であつて許されないとされた事例
民法1条
判旨
建物の所有者が、長年当該建物に居住し生計を支えてきた親族に対し、格別の必要性がないにもかかわらず明渡しを求めることは、その態様が不当な場合には権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
建物の所有者が、生活の拠点を置く親族に対し、格別の必要性なくして明渡しを求めることが、民法1条3項の権利の濫用に該当するか。
規範
所有権に基づく明渡請求であっても、請求者の明渡しの必要性、占有者が置かれた生活上の実情、及び請求に至る経緯等の諸事情を総合考慮し、その請求が正当な利益を欠き、相手方に過酷な負担を強いるものである場合には、民法1条3項の権利濫用としてその行使は制限される。
重要事実
被上告人(義姉)は、夫の死後も20数年にわたり本件建物に居住し、日雇い仕事で亡夫の父母や子供の生計を支えてきた。被上告人は他に転居先を確保できる財産的余裕がない実情にあった。一方、建物の所有権を取得した上告人(義弟)は、他市で事業を営んでおり、建物を自ら使用・処分すべき差し迫った必要性は認められなかった。それにもかかわらず、上告人は所有権移転登記後、直ちに執拗な明渡要求を行い、建具や天井板を取り外す等の暴挙に及び、さらに被上告人に対する確定債務の履行も拒んでいた。
あてはめ
まず、被上告人は本件建物に20数年居住し、一家の生計を維持してきた唯一の拠点である。対して、所有者である上告人には明渡しを求める具体的・切迫した必要性が認められない。その上で、上告人が建具を外す等の暴挙に出たこと、被上告人に対する金銭債務を履行しないまま明渡しを強弁していることは、信義に反する不当な態様といえる。これらの事情を総合すれば、本件明渡請求は単なる権利の行使を逸脱し、相手方に不当な苦痛を与えるものと評価される。
結論
本件建物の明渡請求は権利の濫用に該当し、認められない。
実務上の射程
親族間や長年の居住実態がある事案において、形式的な所有権の行使が著しく過酷な結果を招く場合の調整原理として機能する。司法試験においては、明渡しの必要性と相手方の困窮度を対比し、請求者の態様の悪質さ(嫌がらせ行為等)を摘示して権利濫用を肯定する際の有力な論理構成となる。
事件番号: 昭和32(オ)99 / 裁判年月日: 昭和33年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除が権利の濫用に該当するか否かは、賃料受領拒絶や立退要求等の事実のみをもって直ちに判断されるものではなく、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が賃貸借契約を解除した事案において、上告人(賃借人)側は、被上告人による賃料受領の拒絶や、不当な立退…