賃借人が死亡し、その相続人のあることが分明でないため、相続財産が法人とされ、賃貸借が右相続財産との間に存続することとなつた場合において、相続財産が賃借権を除いては殆んど皆無で、将来において相続人を得る見込もない事情にあるとき、賃貸人が自らその家屋を使用する必要があるときは、賃貸人死亡後引き続きその賃借家屋に居住している賃借人の内縁の妻であつた者が他に移転先のない事情にあつても、相続財産に対する解約申入について正当の事由がありとすることを妨げない。
賃貸人の自己使用の必要と借家法第一条ノ二の正当の事由
借家法1条ノ2
判旨
賃借人の死亡後に内縁の妻が居住を継続する場合、相続人の存否が不明で将来の相続人出現の見込みがなく、かつ賃貸人側に建物使用の必要性が高いときは、解約申入れの正当事由が認められる。
問題の所在(論点)
借地借家法(旧借家法)上の解約申入れにおいて、賃借人の内縁の妻が居住を継続している場合に、相続人不在等の事情を考慮して「正当事由」を肯定できるか。
規範
賃貸借契約の解約申入れにおける正当事由(旧借家法1条の2)の有無は、賃貸人及び賃借人(またはその承継的地位にある者)双方の建物使用を必要とする諸般の事情を総合比較して判断する。内縁の妻が居住を継続している場合、その居住権は賃借権の存続を前提とするが、相続人が不在で将来も現れる見込みがない等の事情があるときは、内縁の妻の主観的な困窮事情があっても、賃貸人側の必要性が優先されることがある。
重要事実
賃借人Dが死亡し、相続人のあることが分明でないため相続財産は法人とされた。Dの内縁の妻である上告人Aは、Dの死亡後も本件家屋に引き続き居住していた。しかし、当該相続財産は本件賃借権を除いて皆無であり、将来において相続人を得る見込みもなかった。一方で、家屋の所有者(賃貸人)である被上告人は、現在の住居が6畳一間しかなく狭隘であるなど、本件家屋を自ら使用する必要性が高い諸般の事情を有していた。
あてはめ
まず、内縁の妻Aの居住権は、相続人が判明した際にその意に反しない限度で認められるに過ぎないところ、本件では将来相続人が現れる見込みがない。次に、賃貸人側の事情をみると、現在の居住状況が極めて狭隘であり、本件家屋の使用を必要とする客観的理由が認められる。これに対し、Aには移転先がないという主観的事情があるものの、相続関係の断絶や賃貸人の必要性と比較考慮すれば、賃貸人の解約申入れを維持するだけの正当な理由があるといえる。
結論
解約申入れの正当事由を認め、賃貸人の請求を認容した原判決を維持し、上告を棄却する。
実務上の射程
内縁の妻の居住権保護が問題となる事案において、相続人が不在かつ相続財産が乏しいという特殊事情がある場合の正当事由判断の枠組みを示している。答案上は、借地借家法28条の「正当事由」の考慮要素として、賃借人側の属性(内縁関係)と相続の蓋然性、賃貸人側の自己使用の必要性を比較衡量する際の参考となる。
事件番号: 昭和25(オ)24 / 裁判年月日: 昭和27年11月18日 / 結論: 棄却
他人の賃借居住中の家屋を買い受けた者の賃貸借の解約申入も、後記事由(第二審判決理由参照)があるときは、正当の事由がある。