一 自己の所有家屋を他に賃貸している者が賃貸借継続中に第三者に右家屋の所有権を移転した場合には、特段の事情のないかぎり、賃貸人の地位もこれにともなつて右第三者に移転するものと解すべきである。 二 賃料不払により賃貸借契約を解除したことを理由とする家屋明渡請求訴訟において、賃借人(被告)から、賃貸人(原告)は右解除の意思表示をした当時すでに右家屋を第三者に売り渡してその実体的権利を失つているから明渡請求権を有しない旨の主張がされたのに対し、賃貸人(原告)に右主張に対する認否を求めることなく、本訴請求は賃貸借の消滅による目的物返還請求権に基づくものであるから、かりに賃貸人(原告)が右家屋の所有権を他に移転しても右請求権の行使を妨げる理由にはならないとして、右主張を排斥するのは、審理不尽の違法がある。
一 家屋所有権の移転と賃貸人の地位の承継。 二 家屋所有権の移転による賃貸人の地位の承継に関し審理不尽の違法があるとされた事例。
借家法1条,民訴法394条
判旨
賃借建物の譲渡により所有権が移転した場合、特段の事情がない限り賃貸人の地位も随伴して移転するため、譲渡後の旧所有者による賃料不払を理由とした解除権の行使は認められない。
問題の所在(論点)
賃貸借の目的物である建物が第三者に譲渡された場合、賃貸人の地位はどのように扱われるか。また、譲渡人(旧所有者)は譲渡後に賃料不払を理由とする解除権を行使できるか。
規範
自己の所有建物を他に賃貸している者が、賃貸借継続中に当該建物を第三者に譲渡してその所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当該第三者に移転する。したがって、旧所有者が賃貸人としての地位を喪失した後になされた賃料不払に基づく解除権の行使は、その効力を有しない。
重要事実
賃貸人である被上告人は、昭和34年9月28日に本件建物を訴外Dに売り渡したが、その後の10月5日に、9月末日までの延滞賃料の催告およびこれに基づく本件賃貸借契約の解除を行った。これに対し賃借人である上告人は、解除当時すでに被上告人は所有権を失い、実体的権利がDに移転しているため、解除は無効であると主張した。
あてはめ
本件において、被上告人が上告人に対して自己所有の建物を賃貸していた事実に争いはない。しかし、上告人の主張通り、解除権行使以前の9月28日に建物がDに売り渡され所有権が移転していたのであれば、特段の事情がない限り、賃貸人の地位もDに移転する。そうであれば、被上告人は10月5日の解除権行使時点において既に賃貸人としての地位を喪失していたといえるため、当該解除権の行使は無効となる。
結論
建物の所有権が第三者に譲渡された場合、特段の事情がない限り賃貸人の地位も移転するため、地位を失った旧所有者による契約解除は認められない。
実務上の射程
不動産賃貸借における賃貸人たる地位の移転に関する基本的判例である。答案上では、賃貸人地位の移転を認める根拠(旧借家法1条、現借地借家法31条等の対抗要件の具備)とセットで論じることが多い。地位の移転が認められる以上、解除権のみを旧所有者に留保することは原則としてできないという帰結を導く際に使用する。
事件番号: 昭和29(オ)906 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】家屋賃貸借の解約における正当事由の有無を判断する際、所有権は重視されるべき事情の一つであるが、いかなる場合も所有権が他の権利に優越するわけではなく、当事者双方の利害関係その他諸般の事情を総合考慮すべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、被上告人(賃借人)との家屋賃貸借契約を解約しようと…