判旨
借地借家法(旧借家法)における更新拒絶の「正当の事由」は、賃貸人側の自己使用の必要性を主軸としつつ、同居人の移転等の事情による必要性の緩和が認められない場合には、正当事由が具備されると解される。
問題の所在(論点)
賃貸人の親族や使用人が別の場所へ移転した場合において、なお賃貸人が当該建物を自ら使用する必要性(正当事由)が認められるか、その判断基準が問題となる。
規範
建物賃貸借の更新拒絶が認められるためには、正当の事由(旧借家法1条の2)が必要である。この正当事由の存否は、賃貸人及び賃借人が建物を必要とする事情のほか、従前の経緯、建物の利用状況、立退料の提供等を総合考慮して判断される。特に賃貸人側の使用の必要性については、同居親族等の移転があっても、なお賃貸人自身が当該建物を必要とする具体的状況が維持されているかという観点から判断すべきである。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、本件家屋を自ら使用する必要があるとして、賃借人(上告人)に対し賃貸借契約の解約を申し入れた。この際、被上告人の居宅から、実兄夫婦及び使用人2名が別の場所(E旅館)に移転するという事実があった。上告人側は、この同居人の移転により被上告人の居住スペースに余裕が生じ、本件家屋を使用する必要性が緩和・消滅したため、正当事由が認められないと主張した。
あてはめ
被上告人の実兄夫婦および使用人が居宅から移転した事実は認められるものの、その事実を考慮してもなお、被上告人が本件家屋を自ら使用する必要性が俄かに緩和されたとは認め難い。また、被上告人が別の宅地について明渡しを受けた事実についても考慮した上で、なお本件家屋の使用を必要とする事情が上回る。したがって、家族構成の変化等の諸事情を総合的に検討しても、賃貸人側の使用の必要性は依然として高く、正当事由を基礎づける事情が存在するといえる。
結論
本件解約の申し入れには正当事由が認められ、更新拒絶は有効である。
実務上の射程
本判決は、正当事由の判断における『使用の必要性』の具体的検討方法を示している。答案上は、同居人の減少等の必要性を減じさせる事情(消極的要素)があったとしても、それを上回る賃貸人の具体的必要性や他の考慮事情(積極的要素)を対比させ、総合評価する際の論理構成として有用である。
事件番号: 昭和30(オ)1016 / 裁判年月日: 昭和32年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借の解約申入れにおける正当事由は、賃貸人側の自己使用の必要性と、賃借人が明渡しにより受ける営業上の困難等の諸事情を比較考量して判断すべきである。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)は、本件建物を自ら使用する必要があるとして、賃借人(上告人)に対し解約の申入れを行った。その際、賃貸人は賃借…