判旨
建物の賃貸人が解約申入れに際して代替家屋を提供する場合であっても、その賃貸条件が従前のものに比して苛酷であるなど不当な内容であれば、借家法上の「正当の事由」を補完するものとは認められない。
問題の所在(論点)
建物賃貸借の解約申入れにおいて、賃貸人が代替家屋の提供を申し出た場合、その賃貸条件が苛酷であっても「正当の事由」を補完する材料として考慮されるか。
規範
建物賃貸借の解約申入れにおける「正当の事由」(借家法1条の2、現行借地借家法28条)の有無を判断するにあたり、賃貸人による立退料の支払や代替家屋の提供といった財産上の給付は考慮要素となり得る。ただし、代替家屋の提供が正当事由を補完し得るためには、それが契約の趣旨(約旨)に副う適切な内容であることを要し、賃借人にとって著しく不利な賃貸条件を課すものは、有効な提供とは認められない。
重要事実
賃貸人(上告人)が賃借人に対し、家屋賃貸借の解約申入れを行った。その際、上告人は代替家屋の提供を申し出たが、その提供された家屋の賃貸条件は、昭和28年7月当時の社会通念や従前の契約関係に照らして非常に苛酷なものであった。原審は、このような条件での提供は解約申入れを正当化する事情にはならないと判断したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
本件において、上告人が提示した代替家屋の賃貸条件は、提供当時の諸事情に照らして「苛酷」であると認定される。このような不当な条件を付した提供は、賃借人の居住の安定を図るという借家法の趣旨に照らし、契約上の衡平を欠くものであって「約旨に副う提供」とはいえない。したがって、代替家屋の提供という事実があったとしても、それによって解約申入れの正当性が補完されることはない。
結論
代替家屋の賃貸条件が苛酷な場合には、正当事由を具備するものとは認められず、本件解約申入れは無効である。
実務上の射程
立退料や代替家屋の提供(立ち退き料等による補完)を論じる際、単に「提供の有無」だけでなく、その「内容の妥当性」が正当事由の有無に直結することを示す論拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和28年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸借において、賃貸人による解約申入れに正当事由があるか否かは、原審が認定した諸事実を総合して判断されるべきであり、本件においては正当事由があるとした原判決の判断を妥当とした。 第1 事案の概要:本件は、建物賃貸人による解約申入れの正当事由が争われた事案である。判決文からは具体的な事案の詳細…