一 労災保険金の受給権者が第三者の自己に対する損害賠償債務を免除することによつて残債務が消滅したような場合には、政府は、その後保険給付をしても、その給付額につき労働者災害補償保険法第二〇条第一項により損害賠償請求権を取得しない(最高裁昭和三七年(オ)第七一一号、同三八年六月四日第三小法廷判決、民集一七巻五号七一六頁参照)。 二 前項の免除が受給権者において政府より保険給付を受けられることを前提としてなされたとしても、特段の事情がないかぎり、受給権者は政府の保険給付では補填されない損害賠償の請求権だけを免除したにすぎないと解することはできない。
一 労災保険金の受給権者が損害賠償債務を免除した後の保険金給付の労働者災害補償保険法第二〇条第一項の適用の有無 二 前項の免除が受給権者において政府より保険給付を受けられることを前提としてなされた場合の右免除の範囲
労働者災害補償保険法20条
判旨
被災労働者が第三者との示談により損害賠償請求権を免除した場合、政府は、示談成立後に支給した労災保険給付額について、労働者災害補償保険法20条1項による代位取得を主張できない。
問題の所在(論点)
被災労働者が労災保険給付を受ける前に、第三者との間で損害賠償請求権を放棄(免除)した場合、その後に支給された労災保険給付について、政府は労働者災害補償保険法20条1項に基づき第三者へ求償できるか。
規範
1. 労働者災害補償保険法20条にいう「第三者」とは、被災労働者との間に労災保険関係のない者で、不法行為等により損害賠償責任を負う者を指し、直接の加害者のみならず使用者(民法715条)や運行供用者(自賠法3条)も含まれる。 2. 労災保険給付の受給権者が、第三者に対する損害賠償請求権を免除し債務が消滅した場合、政府は、その後に保険給付を行っても、当該給付額について同法20条1項に基づく損害賠償請求権(代位権)を取得しない。 3. 保険給付によって補填されない損害のみを免除する趣旨であると解するためには、明示または黙示の約定があったことを認めるに足りる「特段の事情」を要する。
重要事実
被災労働者Dは、加害者Eおよびその運行供用者である上告人との間で示談を成立させた。示談の内容は、上告人らが11万円を支払うこと、Dはそれ以上の請求をしないというものであった。Dは「労災保険から60万円程度貰える」という認識を有していたが、示談書には労災給付との調整に関する明文の規定はなかった。政府(被上告人)は、示談成立後にDに対して労災保険給付を行い、同法20条に基づき上告人に対して代位権を行使した。
あてはめ
1. 本件示談成立時までに既に支給されていた10万2800円については、給付と同時に法律上当然に請求権が政府に移転しているため、Dはこれを放棄できず、政府は代位権を行使できる。 2. 一方、示談成立後の給付分(71万1871円)については、示談によってDの損害賠償請求権が消滅している。Dが「労災保険で補填されない損害のみを放棄した」と解すべき特段の事情は、単に労災給付を予期していたという事実だけでは認められない。 3. したがって、示談後に発生するはずであった損害賠償請求権は免除により消滅しており、政府が代位取得する対象が存在しない。
結論
政府は、示談成立後に支給した労災保険給付相当額については、上告人に対し損害賠償請求権を取得しない。上告人の債務不存在確認請求は、当該部分について認められる。
実務上の射程
被災労働者による損害賠償請求権の放棄(示談)の効力が、政府の代位取得に優先することを明示した。実務上、労災事故の示談において「一切の請求をしない」との条項を入れる場合、示談後の労災給付について政府の求償を遮断できる。ただし、既に給付済みの部分については政府の代位が優先するため、示談の時期が重要となる。
事件番号: 昭和38(オ)691 / 裁判年月日: 昭和39年6月18日 / 結論: 棄却
未乾燥の印刷物を断截して製本作業をするとその結果インキの光沢を失い、断截機の押力でインキが印刷物の紙の裏に附着したりインキが飛んだり紙を汚染し出来上りが不良になるという事実を、公知の事実ということはできない。