建物を買受け所有権移転請求権保全の仮登記を得た甲が右建物を乙に譲渡した場合、乙から甲に対し所有権妨害排除請求権に基づき、右仮登記の抹消登記手続を請求できる。
所有権妨害排除請求権に基づき仮登記の抹消請求を肯定した事例。
民法206条,不動産登記法2条
判旨
不動産の所有権を譲渡した者は、譲受人に対し、当該不動産につき自己の名義でなされている仮登記を抹消すべき義務を負い、所有権を失ったことを理由として当該請求を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
不動産の所有権を譲渡して所有権を失った前所有者は、現所有者からの妨害排除請求としての抹消登記請求に対し、無権限を理由に拒否することができるか。すなわち、登記義務者としての適格が問われた。
規範
不動産の所有権を第三者に譲渡した前所有者は、当該不動産の所有権に基づく妨害排除請求としての登記抹消請求に対し、既に所有権を喪失していることを理由にこれを拒絶することはできず、登記保持者として抹消登記手続を行う義務を負う。
重要事実
上告人は、訴外Dから本件家屋を買い受け所有権を取得したが、その後、被上告人(原告)に対して本件家屋の所有権を譲渡した。しかし、本件家屋には依然として上告人名義の仮登記が存在していたため、現在の所有者である被上告人が、所有権に基づく妨害排除請求として、上告人に対し右仮登記の抹消登記手続を求めた事案である。
あてはめ
上告人は本件家屋の所有権を被上告人に譲渡しており、もはや本件家屋に対する所有権を有していない。しかし、実体上の所有権を失ったとしても、自己の名義でなされている仮登記が現在の所有権を妨害している以上、登記名義人としてその妨害を排除すべき立場にある。したがって、所有権を有しないことを理由に、現所有者である被上告人からの抹消請求を拒むことは正当化されない。
結論
上告人は被上告人の本訴請求を拒み得ず、本件仮登記の抹消登記手続をすべき義務を負う。
実務上の射程
物権的請求権の相手方に関する法理であり、登記請求においては、現在の実体的な所有権の有無にかかわらず、登記名義を保有し現在の所有権を妨害している者が義務者となることを認めた。答案上は、物権的妨害排除請求の相手方として「登記名義人」を特定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)160 / 裁判年月日: 昭和41年3月18日 / 結論: 棄却
所有権保存登記およびその後順次経由された所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟において、最終登記名義人を被告とする請求について敗訴の判決があつた場合でも、その余の被告らに対する請求は訴の利益を失うものではない。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和33(オ)1128 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
甲が乙から宅地を買受けその旨の所有権取得登記を経由したのち、乙の債務不履行を原因として右売買契約が解除された場合には、甲は乙に対し右登記の抹消登記手続を求めることができる。
事件番号: 昭和35(オ)1299 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: その他
建物所有権移転請求権保全の仮登記権利は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しないかぎり、登記の欠缺を主張しうる第三者に対し該建物の明渡を求めることは許されない。