甲所有の不動産を乙が買い受け代金を完済してその所有権を取得したが、丙の依頼により、乙は、丙に信用を与えるため右不動産について登記簿上の名義を丙名義とすることを承諾し、右不動産について甲より直接丙あてに所有権移転登記がされ、さらに、丙より乙に対して代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記が経由された場合には、右仮登記は登記原因たる実体上の権利を欠き無効である。
所有権移転請求権保全の仮登記が登記原因たる実体上の権利を欠き無効であるとされた事例
不動産登記法2条
判旨
真正の所有者が他人の名義で登記することを承諾した場合、所有権に基づく妨害排除請求としての移転登記請求権を保全するために仮登記を経由することはできない。そのような仮登記は、実体上の物権変動を前提とする不動産登記法上の要件を欠き、仮登記後に所有権を取得した善意の第三者に対抗できない無効なものとなる。
問題の所在(論点)
真正の所有者が、名義人に対して有する所有権に基づく移転登記請求権(物上請求権)を保全するために、仮装の「代物弁済予約」等を登記原因として仮登記を経由した場合、その仮登記の効力は認められるか。特に、仮登記後に現れた善意の第三者との関係が問題となる。
規範
不動産登記法(旧法2条、現法105条1号等)に基づき所有権移転の仮登記が許されるのは、物権変動が既に発生しているか、条件・期限等の付着により将来確定的に生ずべき場合等の「現在又は将来の物権変動」が前提となる場合に限られる。真正の所有者が登記名義人に対して有する、所有権に基づく物上請求権としての移転登記請求権は、当事者間の物権変動に基づくものではないため、これを登記原因とする仮登記は無効である。これを有効と解すると、民法94条2項の趣旨に反し、善意の第三者を不当に害することになる。
重要事実
真正の所有者である上告人は、訴外Eの信用を高める目的で、本件土地等の所有名義をEとすることを承諾し、DからEへの直接の移転登記を経由させた。その後、上告人はEとの間で「代物弁済予約」を原因とする移転請求権保全の仮登記を経由したが、実際には代物弁済予約の事実は存在しなかった。一方、被上告人は、Eが所有者であると信じて本件土地を譲り受け、移転登記を経由した。上告人は本件仮登記に基づき、後順位の被上告人の登記の抹消を求めた。
あてはめ
本件における上告人とEとの間には、実体上の代物弁済予約は存在せず、物権変動を目的とする合意も認められない。上告人がEに対して有する移転登記請求権は、あくまで所有権に基づく物上請求権にすぎず、不動産登記法が予定する「物権変動」を前提とする請求権ではない。また、このような無効な原因に基づく仮登記に優先権を認めると、民法94条2項等の権利外観法理によって保護されるべき善意の第三者(被上告人)に対し、仮登記権利者が常に対抗できることになり、法秩序の調和を欠く結果となる。したがって、本件仮登記は実体上の権利を保全するものではなく無効である。
結論
本件仮登記は登記原因を欠く無効なものであり、これに基づき後順位の譲受人である被上告人(第三者)に対抗することはできない。上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
所有権に基づく物上請求権としての登記請求権を、仮登記によって保全することはできないとする射程を持つ。答案上は、仮登記の流用や、虚偽表示(94条2項)に関連して、登記の公信力が否定される中でいかに第三者の信頼を保護するかという文脈で、仮登記の有効性を否定する根拠として用いる。
事件番号: 昭和44(オ)1009 / 裁判年月日: 昭和45年6月2日 / 結論: その他
甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由…
事件番号: 昭和47(オ)620 / 裁判年月日: 昭和49年12月24日 / 結論: 棄却
金銭債権の担保のため債務者所有の不動産に所有権移転請求権保全の仮登記をするのに代えて、他の債権者の債権担保のため所有権移転請求権保全の仮登記が被担保債権の消滅にもかかわらず残存しているのを利用して新債権者への右請求権移転の附記登記をした場合、附記登記後に右不動産につき利害関係を有するにいたつた第三者は、特別の事情のない…