甲より所有権を譲り受けて、その登記を経由した乙は、登記簿滅失による回復登記申請期間を徒過しても、乙の登記後甲より所有権を譲り受けた丙に対し、自己の所有権取得を対抗できる。
回復登記申請期間の徒過と所有権取得の対抗力。
民法177条,不動産登記法23条
判旨
不動産の譲受人が所有権移転登記を経由した以上、譲渡人は絶対的無権利者となる。その後、登記簿の滅失により回復登記期間を徒過して未登記状態になっても、譲渡人が権利を回復することはなく、譲渡人から譲り受けた第三者は対抗問題における正当な利益を有する第三者に該当しない。
問題の所在(論点)
登記簿が滅失し、かつ回復登記期間を徒過したことで未登記状態となった場合、一度登記を経由して無権利者となった元譲渡人から不動産を譲り受けた第三者は、民法177条の「第三者」として既登記の欠缺を主張できるか。
規範
1. 不動産につき所有権移転登記が経由された場合、譲渡人は当該不動産について絶対的に無権利者となる。2. 登記簿の滅失に伴う回復登記期間の徒過により、将来に向かって未登記状態が生じたとしても、過去に遡って未登記(かつて一度も登記がなかった状態)と同視することはできない。3. 不動産登記法上の回復登記規定は、期間徒過により既登記の対抗力が当然に消滅する趣旨を含まない。したがって、絶対的無権利者となった元譲渡人が、現所有者の回復登記懈怠によって再び実体上の権利を回復することはない。
重要事実
1. 訴外Eは、昭和15年に本件土地を被上告人(原告)に譲渡し、所有権移転登記を完了した。2. 昭和20年の戦災により登記簿が焼失したが、被上告人は回復登記の申請期間を徒過し、土地は未登記状態となった。3. 昭和28年、元譲渡人Eは自ら所有権保存登記をなし、これを上告人(被告)に売却して移転登記を経由した。4. 被上告人が上告人に対し、上告人名義の登記の抹消を求めて提訴した。
事件番号: 昭和34(オ)470 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未登記不動産の所有者がこれを譲渡した後でも、登記を備えない限り譲渡人は完全な無権利者とはならない。したがって、譲渡人名義でなされた保存登記およびそれを前提とする仮差押登記は、対抗関係の法理により有効である。 第1 事案の概要:訴外Dは、自己の所有する本件建物を未登記のまま上告人Aに売り渡した。その…
あてはめ
1. 被上告人は一度有効に所有権移転登記を経由しているため、その時点で元譲渡人Eは絶対的に無権利者となっている。2. 回復登記期間の徒過は実体法上の権利関係を左右するものではなく、Eが権利を回復する法的根拠はないため、Eによる所有権保存登記は実体関係に合致しない無効なものである。3. 上告人は、かかる絶対的無権利者であるEから譲り受けた者に過ぎない。4. 有効な取引関係に立つ第三者とはいえない上告人は、被上告人の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」には該当しない。
結論
被上告人の請求を認容し、上告人名義の登記抹消を認めた原判決は正当である。上告人は登記の欠缺を主張できる第三者にあたらない。
実務上の射程
本判決は、登記の具備により一度確定した物権変動の効力は、その後の不測の事態(登記簿滅失)や手続的懈怠によっても、元譲渡人との関係では覆らないことを示した。もっとも、本件は元譲渡人からの「二重譲渡」に類似する外形を持つが、実体法上の無権利者からの譲受けであることを強調して177条の適用を否定しており、不法占拠者や無権利者からの譲受人を「第三者」から除外する法理の一類型として機能する。
事件番号: 昭和30(オ)548 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 棄却
甲所有の不動産につき、一旦国税滞納処分による公売に基き落札者乙のため所有権取得の登記がなされた後、右公売の取消処分があつた結果、甲に所有権が復帰した場合であつても、その登記がないときは、甲は、前記落札者乙から公売取消後その不動産を譲り受けた丙に対し、右所有権の復帰を対抗することを得ない。
事件番号: 昭和29(オ)718 / 裁判年月日: 昭和30年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第二の買受人は、自らが登記を具備していなくとも、第一の買受人に対して登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する「第三者」に該当する。 第1 事案の概要:上告人は、係争家屋を被上告人が代物弁済により取得する以前に譲り受けていたと主張した。しかし、上告人は当該譲受について何…
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…