金銭債権の担保のため債務者所有の不動産に所有権移転請求権保全の仮登記をするのに代えて、他の債権者の債権担保のため所有権移転請求権保全の仮登記が被担保債権の消滅にもかかわらず残存しているのを利用して新債権者への右請求権移転の附記登記をした場合、附記登記後に右不動産につき利害関係を有するにいたつた第三者は、特別の事情のないかぎり、右流用による登記の無効を主張することができない。
附記登記による所有権移転請求権保全仮登記の流用と附記登記後の第三者
民法177条,不動産登記法2条,不動産登記法7条
判旨
消滅した債務を担保するための仮登記を、別の債権の担保のために流用する仮登記移転の附記登記は、実体上の権利関係と一致する限り有効であり、その後に利害関係を得た第三者は原則として無効を主張できない。
問題の所在(論点)
消滅した債務に基づく仮登記を別の債務の担保として流用した「仮登記の流用(附記登記による流用)」の有効性と、後順位の利害関係人がその無効を主張できるか。
規範
仮登記は不動産物権変動の過程を如実に反映していなくとも、その登記が現実の実体上の権利関係に符合する限りにおいて有効である。したがって、旧債務の消滅により無効となった仮登記を、別の新債務を担保するために流用する旨の合意に基づき、仮登記移転の附記登記がなされた場合、当該附記登記が現在の実体的な権利状態と一致する限り、当事者間だけでなく、その後に利害関係を取得した第三者であっても、特段の事情がない限りその無効を主張する正当な利益を有しない。
重要事実
Dは、Eに対する500万円の借入債務を担保するため、本件土地に所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。その後、DはEに対し債務を完済したが、仮登記を抹消せず放置していた。Dは、被上告人らの先代Fに対する別債務(500万円)を担保するため、Eから回収していた関係書類を利用して、上記仮登記をFに移転する附記登記を行った。その後に、Dから本件土地を担保に借入れをし、後順位の仮登記および代物弁済による本登記を経由した上告人が、F側の仮登記(附記登記)の無効を主張した。
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。
あてはめ
本件では、FはDに対して実際に500万円の債権を有しており、本件土地をその担保とする実体上の合意があった。F名義の仮登記移転の附記登記は、物権変動の過程(一度消滅したはずの登記を再利用した点)を正確に反映してはいないものの、Fが担保権を有するという現在の実体的な権利関係とは符合しているといえる。上告人は、この附記登記がなされた後に本件土地に利害関係を持った第三者にすぎず、実体関係と符合する登記の無効をあえて主張すべき「特段の事情」も認められないため、無効を主張する正当な利益を欠く。
結論
仮登記移転の附記登記は実体関係と一致し有効である。後順位の利害関係人である上告人は、当該登記の無効を主張できない。
実務上の射程
登記の流用(いわゆる無効登記の流用)の法理を、仮登記の移転(附記登記)の場面で肯定した。実体関係との合致を重視し、後順位者が不当な漁夫の利を得ることを制限する論理として、登記の公信力が否定される現行法下での実質的妥当性を図る判例である。答案上は、登記の有効性が争われる場面で「実体関係との合致」を論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和41(オ)649 / 裁判年月日: 昭和44年3月4日 / 結論: 棄却
甲所有の不動産を乙が買い受け代金を完済してその所有権を取得したが、丙の依頼により、乙は、丙に信用を与えるため右不動産について登記簿上の名義を丙名義とすることを承諾し、右不動産について甲より直接丙あてに所有権移転登記がされ、さらに、丙より乙に対して代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記が経由された場合には、右…
事件番号: 昭和41(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和44年2月27日 / 結論: 棄却
不動産の譲受人を債権者とし譲渡人を債務者として右不動産について処分禁止の仮処分登記が経由され、その後第三者に対する所有権移転登記が経由された場合において、仮処分債権者たる譲受人より譲渡人に対する本案訴訟としての所有権移転登記手続請求の訴と右第三者に対する所有権取得登記の抹消登記手続請求の訴とが併合して審理され、仮処分債…
事件番号: 昭和55(オ)1140 / 裁判年月日: 昭和57年3月25日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の名義人は、登記上利害関係を有する第三者の承諾書等がないため、仮登記とは無関係に所有権移転登記を経由した場合であつても、特段の事情のない限り、仮登記義務者に対して仮登記の本登記手続を請求する権利を失わず、右仮登記の本登記を承諾すべき第三者の義務も消滅しない。
事件番号: 昭和59(オ)211 / 裁判年月日: 昭和61年3月17日 / 結論: 破棄差戻
農地の売買に基づく県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間が経過してもその後に右農地が非農地化した場合には、買主に所有権が移転し、非農地化後にされた時効の援用は効力を生じない。