双務契約における登記の抹消請求と代金支払義務とが同時履行の関係にある場合には、買主は、同時履行の抗弁権の存在により弁済期に代金を支払わなくても、特段の事情のないかぎり、遅滞の責に任じない。
双務契約における同時履行の抗弁権の存在と履行遅滞の有無。
民法415条,民法533条
判旨
売買契約における代金支払義務と目的物の登記抹消義務が同時履行の関係にある場合、買主は同時履行の抗弁権を有するため、特段の事情がない限り、履行期を経過しても遅滞の責任を負わない。
問題の所在(論点)
同時履行の抗弁権が存在する場合において、債務者が履行遅滞の責任を負うか。特に、行使の意思表示がない段階での履行遅滞の成否が問題となる(存在効果の成否)。
規範
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(民法533条)。この同時履行の抗弁権が存在する場合には、債務者は履行期を徒過しても履行遅滞の責任を負わない。したがって、反対債務の履行提供がない限り、遅延損害金支払義務は発生しない。
重要事実
買主(上告人)と売主(被上告人)との間で建物の売買契約が締結された。当該建物には根抵当権が設定されており、売主の根抵当権設定登記抹消義務と買主の売買代金支払義務は同時履行の関係にあった。しかし、一審・二審判決は、この同時履行の関係を認めつつ、買主に対し履行期である昭和31年3月1日からの遅延損害金の支払を命じたため、買主が上告した。
あてはめ
本件において、建物の根抵当権抹消登記請求と売買代金支払義務は同時履行の関係にあると認められる。この場合、買主には同時履行の抗弁権が付着しているため、弁済期に代金を支払わなくても「遅滞の責に任ずべきいわれはない」。原判決は、特段の事情(売主による適法な履行の提供など)を認定することなく、抗弁権の存在を認めながら遅延損害金の支払を命じており、同時履行の抗弁権の性質に反する違法がある。
結論
買主は売買代金について履行遅滞の責任を負わず、遅延損害金の支払義務はない。よって、遅延損害金の請求に関する部分は棄却されるべきである。
実務上の射程
同時履行の抗弁権の「存在効果」を認めた判例として重要である。実務上、債務不履行(履行遅滞)に基づく損害賠償請求の場面では、請求を受ける側が同時履行の抗弁権を有しているだけで、現実にその行使を宣言しなくとも遅滞の責任を免れるという点(存在効果)を論証する際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)1300 / 裁判年月日: 昭和39年7月16日 / 結論: 棄却
原判示(原判決参照)事実関係のもとにおける売買契約に付随する手附に関する特約は、損害賠償の予定たる性質を有する違約手附の約定と解すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)1 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】双務契約において一度履行の提供があったとしても、その提供が継続されていない限り、相手方は民法533条に基づく同時履行の抗弁権を失わない。 第1 事案の概要:売主(被上告人)が買主(上告人)に対し、オート三輪車の売買代金の残額を請求した事案。原審は、売主がかつて本件オート三輪車を提供して買主を受領遅…