同時履行の抗弁の提出がないかぎり、裁判所は、進んで引換給付の判決をすべきものではなく、また、同時履行の抗弁の提出を促すべく釈明する義務を負うものではない(昭和二七年一一月二七日第一小法廷判決、民集六巻一〇号一〇六二頁参照)。
同時履行の抗弁についての釈明義務。
民法533条,民訴法127条
判旨
売買契約解除による代金返還請求において、売主が同時履行の抗弁を提出しない限り、裁判所は引換給付判決をすべきではなく、その提出を促す釈明義務も負わない。
問題の所在(論点)
契約解除に伴う原状回復義務が同時履行の関係にある場合、当事者が抗弁を提出しなくても裁判所は引換給付判決をすべきか。また、同時履行の抗弁を提出させるべき釈明義務を裁判所は負うか。
規範
売買契約解除に伴う各当事者の原状回復義務(民法545条、533条類推適用)が同時履行の関係にある場合であっても、当事者が同時履行の抗弁を提出しない限り、裁判所は当然に引換給付判決を下すことはできない。また、裁判所には当事者に対して同時履行の抗弁を提出するよう促すべき釈明義務(民事訴訟法149条参照)も存在しない。
重要事実
上告人(売主)は訴外Dから乳牛を買い取った上で、被上告人(買主)に18万2000円で転売した。その後、被上告人が売買契約を解除し、代金の返還を求めて提訴した。上告人は、自身は売買の当事者ではない(仲介者に過ぎない)として売買の事実自体を否認し、請求棄却の判決を求めた。しかし、上告人は代金返還債務と乳牛の返還債務の同時履行の抗弁を提出しなかった。
あてはめ
上告人は、第一審および控訴審において、一貫して売買の事実自体を否認するのみであった。同時履行の抗弁は、当事者がその利益を享受する意思を明示的に表示しなければならない権利抗弁である。上告人が単に請求棄却を求めるだけで、引換給付を求める旨の抗弁を提出していない以上、私法上の権利行使がないものとして扱うべきである。また、釈明権は当事者の主張を整理し不明確な点を正すためのものであり、一方の当事者に有利な特定の抗弁提出を勧める義務までを裁判所に課すものではない。
結論
裁判所は引換給付判決をすべきではなく、釈明義務違反も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
同時履行の抗弁は権利抗弁であり、当事者による主張(提出)が必要であることを明確にした射程の長い判例。答案作成上は、双務契約や解除後の原状回復において、相手方の義務履行との引換を主張したい場合は必ず「同時履行の抗弁」を顕出する必要があることを示す際に引用する。
事件番号: 昭和38(オ)25 / 裁判年月日: 昭和40年2月4日 / 結論: その他
双務契約における登記の抹消請求と代金支払義務とが同時履行の関係にある場合には、買主は、同時履行の抗弁権の存在により弁済期に代金を支払わなくても、特段の事情のないかぎり、遅滞の責に任じない。
事件番号: 昭和35(オ)1 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】双務契約において一度履行の提供があったとしても、その提供が継続されていない限り、相手方は民法533条に基づく同時履行の抗弁権を失わない。 第1 事案の概要:売主(被上告人)が買主(上告人)に対し、オート三輪車の売買代金の残額を請求した事案。原審は、売主がかつて本件オート三輪車を提供して買主を受領遅…