判旨
同時履行の関係にある債務について、反対債務の履行の提供をすることなく、また相手方がその債務を履行しない意思が明確であるという事情もない限り、単に相手方が履行期を経過しても債務を履行しないことを理由に契約を解除することはできない。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある債務において、自己の債務の履行を提供することなく相手方の履行遅滞を理由に契約を解除できるか。また、履行の提供を不要とする「履行しない意思が明確である」という事実の主張立証責任は誰が負うか。
規範
双務契約において当事者双方の債務が同時履行の関係にある場合、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するためには、原則として自己の債務の履行を提供して履行を請求しなければならない。例外として、債務者がその債務を履行しない意思が明確であると認められる特段の事情がある場合には、履行の提供を要しない。
重要事実
上告人と被上告人の被承継人との間で締結された売買契約(第一次契約)に基づき、被上告人側は目的物の引渡義務を、上告人は代金支払義務を負っていた。これらは同時履行の関係にあったが、上告人は自己の債務の履行を提供することなく、被上告人側が履行期を経過しても目的物を引渡さないことのみを理由に解除の意思表示をした。上告人は、相手方に明確な履行拒絶の意思があった事実は主張していなかった。
あてはめ
本件売買契約の債務は同時履行の関係にあり、上告人が相手方を履行遅滞にするには自己の債務の提供が必要である。しかし、上告人は単に履行期経過を陳述したに留まり、履行の提供をした事実はない。また、相手方がその債務を履行しない意思を明確にしていたという例外的事実についても、上告人は主張していない。したがって、相手方に履行遅滞は認められず、上告人の解除は無効である。なお、これら例外的事実については解除を主張する側に主張責任がある。
結論
自己の債務の履行の提供を欠く以上、相手方に履行遅滞は成立せず、なされた契約解除の意思表示は無効である。
実務上の射程
同時履行の抗弁権(民法533条)が存する以上、541条に基づく解除には履行の提供による相手方の抗弁権喪失が不可欠であるという、解除の要件論(履行遅滞の成立)を明確にした射程の長い判例である。答案上は、解除の有効性を論じる際、同時履行関係の有無を確認し、履行の提供の有無、あるいは履行拒絶の意思表示の有無を検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和35(オ)1323 / 裁判年月日: 昭和38年9月13日 / 結論: 棄却
同時履行の抗弁の提出がないかぎり、裁判所は、進んで引換給付の判決をすべきものではなく、また、同時履行の抗弁の提出を促すべく釈明する義務を負うものではない(昭和二七年一一月二七日第一小法廷判決、民集六巻一〇号一〇六二頁参照)。
事件番号: 昭和38(オ)447 / 裁判年月日: 昭和42年6月29日 / 結論: 破棄差戻
一 上告人が昭和二四年九月被上告人に対し、上告人製造にかかる低乾中油を加工精製したD油を毎月一〇〇屯供給する旨を約した契約につき、上告人が同年一一月から翌二五年五月までの間に合計一一五屯余のD油を供給したところ、昭和二五年二月頃右契約当事者が話し合つた際にも、上告人が履行の言訳けに終始したところ、当時上告人はなお右D油…