原判示(原判決参照)事実関係のもとにおける売買契約に付随する手附に関する特約は、損害賠償の予定たる性質を有する違約手附の約定と解すべきである。
損害賠償の予定たる性質を有する違約手附の約定と認められた事例。
民法420条,民法557条
判旨
不動産売買において、登記手続義務が単なる附随的義務ではなく主たる債務と認められる場合には、その不履行を理由とする契約解除は有効である。また、代金支払義務者が登記所に残代金を携行した事実は、特段の事情がない限り債務の本旨に従った有効な弁済の提供にあたる。
問題の所在(論点)
1.登記手続義務の不履行を理由とする契約解除の可否(附随的義務か主たる債務か)。2.登記所に残代金を携行したことが「債務の本旨に従った弁済の提供」といえるか。
規範
売買契約において、特定の債務が解除権を発生させる主たる債務にあたるか否かは、契約の目的や諸般の事情に照らして判断される。登記手続義務が引渡義務と並んで重要な意味を持つ場合、それは単なる附随的義務ではなく主たる債務と解される。また、弁済の提供(民法493条)は、債務者が債務の履行に必要な準備を完了し、相手方の受領を催告することによって認められる。
重要事実
買主である被上告人と、売主D(上告人の前主)との間で不動産売買契約が締結された。契約では昭和34年10月23日を目的物の引渡および所有権移転登記手続の履行期と定めていた。当日、買主は残代金500万円を所轄登記所に携行して提供したが、売主Dは登記手続を履行しなかった。翌24日、買主は同月27日まで登記を猶予する旨を了承したが、結局履行されなかったため、買主は特約に基づき契約を解除し、違約金の支払等を求めた。
事件番号: 昭和31(オ)678 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続…
あてはめ
1.本件契約において昭和34年10月23日は登記義務の確定した履行期と定められており、引渡がなされたとしても登記手続の履践は契約の重要な要素であったといえる。したがって、登記義務は単なる附随的義務にとどまらず、その不履行は契約解除事由となる。2.買主が残代金500万円を所轄登記所に携行したことは、引換給付の関係にある登記手続を受けるための準備を尽くしたといえ、債務の本旨に従った有効な弁済の提供にあたる。3.履行遅滞後の猶予の了承は、履行期限を延期する合意とは認められない。
結論
売主Dに登記手続義務の不履行(履行遅滞)が認められ、買主による弁済の提供も有効になされているため、本件特約に基づく契約解除は有効である。
実務上の射程
契約解除の要件としての「主たる債務」と「附随的義務」の区別、および弁済の提供の具体的態様(登記所への代金持参)を示す実務上重要な判断である。答案上は、催告による解除(541条)や無催告解除の有効性を論じる際に、当該債務の重要性を基礎づける論拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)25 / 裁判年月日: 昭和40年2月4日 / 結論: その他
双務契約における登記の抹消請求と代金支払義務とが同時履行の関係にある場合には、買主は、同時履行の抗弁権の存在により弁済期に代金を支払わなくても、特段の事情のないかぎり、遅滞の責に任じない。
事件番号: 昭和37(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和38年3月28日 / 結論: 棄却
米国に移住のため在日財産処分の必要に迫られた者が渡米の日とにらみ合せて売買代金支払および登記手続履行の日時を定めて建物の売買契約をした場合でも、右期日までに代金支払がなされなければ相当の不便を感じることが推測されるだけで売買の目的を達しえない事情までは認められない以上、これを定期行為とみることはできない。