判旨
売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。
問題の所在(論点)
売買契約において代金支払を先行させる特約がある場合、民法533条の同時履行の抗弁権が成立するか。また、先行履行を前提とした解除権の行使が信義則に反するか。
規範
双務契約において同時履行の抗弁権(民法533条)が認められるのが原則であるが、当事者間に履行期の前後を定める特約がある場合には、当該特約が優先され同時履行の関係は否定される。また、当該特約に基づく履行の催告及び解除権の行使が直ちに信義則(民法1条2項)や権利濫用(同条3項)に抵触することはない。
重要事実
被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約が存在した。被上告人は昭和24年12月末までに一部代金14万円の支払を受けたため、目的物の一部である宅地1筆の移転登記を履践したが、残債務の不履行を理由に契約解除を主張した。これに対し、上告人は同時履行の抗弁および解除権行使の信義則違背を主張して争った。
あてはめ
本件売買契約には、代金債務の履行期を登記手続に先行させる旨の明確な特約が認められる。この事実関係の下では、代金支払と登記手続との間に同時履行の関係は存在しないといえる。したがって、買主は登記の提供がないことを理由に支払を拒絶することはできず、履行遅滞に陥る。また、このような先行履行の特約に基づき、売主が解除権を行使することは適法な権利行使であり、特段の事情がない限り、信義則に違背し権利を濫用したものとは解されない。
結論
代金先行履行の特約がある以上、同時履行の抗弁は認められず、解除権の行使は有効である。
事件番号: 昭和32(オ)444 / 裁判年月日: 昭和35年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】双務契約の当事者一方が、登記抹消義務や電話加入権の名義変更義務といった自己の債務を履行しない限り、他方の当事者は対価関係にある割賦金の支払を拒絶することができる。 第1 事案の概要:売主D社らは、買主らとの土地建物売買契約に基づき、土地建物の引渡し、所有権移転登記、二重登記の抹消、および割賦金が一…
実務上の射程
契約自由の原則に基づき、同時履行の抗弁権を排除する先行履行特約の有効性を確認した事例。実務上、代金先払いの合意がある事案において、民法533条の抗弁を封じるための根拠として利用できる。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
事件番号: 昭和36(オ)258 / 裁判年月日: 昭和39年12月22日 / 結論: 破棄差戻
貸金債権を担保する不動産の売買予約完結権につき右債務を弁済したときは予約完結権のための所有権移転請求権保全の仮登記を抹消する旨の調停が成立した場合において、調停条項に右予約完結権の行使の効果について明記されておらずその他判示事情のもとでは、右調停により、前記予約完結権の行使の効果が当初の代物弁済的性質から、いわゆる清算…
事件番号: 昭和31(オ)686 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
一 契約解除の前提としての催告が有効であるためには、少くとも催告と同時に相手方が遅滞に付されることを要する。 二 双務契約上の債務の受領遅滞にある者が契約解除の前提としての催告をするためには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。
事件番号: 昭和27(オ)1078 / 裁判年月日: 昭和30年5月31日 / 結論: 破棄差戻
乙が甲から不動産を買い受けて登録を経ないうち、丙が甲から右不動産を買い受けて登記をなし、これをさらに丁に売り渡して登記を経たため、乙がその所有権取得を丁に対抗することができなくなつた場合において、丙がその買受当時甲乙間の売買の事実を知つていたというだけでは、丙は乙に対し不法行為責任を負うものではない。