土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
土地買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例
民法1条2項,民法533条,民法541条
判旨
売買代金の未払が著しく、既に目的物の引渡しを受けて長期間使用を継続しているなど、買主の義務不履行の態様が不当な場合には、信義則上、同時履行の抗弁権を主張して解除を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
債務者が長期間にわたり多額の債務を履行せず、かつ目的物の利用という利益を享受し続けている場合において、反対債務の履行の提供がないことを理由に同時履行の抗弁権を主張し、契約解除を阻むことが許されるか。
規範
債務者が同時履行の抗弁権を有する場合であっても、当該抗弁権を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められる特別の事情があるときは、その主張は許されず、履行の提供がないままなされた催告及び解除の意思表示も有効となる。
重要事実
買主Aは、酒造工場経営のため、売主Bから土地1(賃貸借)及び土地2(売買)を確保した。土地2については、申請手続の過誤により土地1に所有権移転登記がなされたが、Aは両土地の引渡しを受け、工場建物を建築して使用を続けていた。しかし、Aは土地1の権利金・賃料、及び土地2の売買代金の過半数(約148万円)を未払のまま放置した。Bは催告の上、売買契約及び賃貸借契約を解除したが、Aは土地2の登記手続義務との同時履行を主張して争った。
事件番号: 昭和32(オ)444 / 裁判年月日: 昭和35年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】双務契約の当事者一方が、登記抹消義務や電話加入権の名義変更義務といった自己の債務を履行しない限り、他方の当事者は対価関係にある割賦金の支払を拒絶することができる。 第1 事案の概要:売主D社らは、買主らとの土地建物売買契約に基づき、土地建物の引渡し、所有権移転登記、二重登記の抹消、および割賦金が一…
あてはめ
本件において、Aは土地2の引渡しを受け、既に工場を建築して使用を継続するという利益を得ている。一方で、売買代金の約6割にあたる多額の債務を長期間支払わず、併せて土地1の賃料等も不払いとしている。登記の不備は手続上の過誤によるものであり、Aが目的物の実質的な支配を享受している実態に照らせば、Bが登記手続の提供をせずにした催告・解除に対し、Aが同時履行の抗弁を主張することは信義則に反する。
結論
買主による同時履行の抗弁権の主張は認められず、売主による登記の提供を欠いた催告及び解除の意思表示は有効である。
実務上の射程
双務契約において、形式的には同時履行の関係にあっても、一方の不履行が著しく、かつ相手方の給付(本件では引渡し)によって既に多大な便益を受けている場合の救済論として活用できる。答案上は、533条の原則を述べた上で、1条2項(信義則)を適用する際の考慮要素(不履行の程度、受益の状況、経過期間等)を具体的事実から抽出する形で記述する。
事件番号: 昭和39(オ)1052 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金員借入の委任を受けた代理人が不動産を売却した事案において、本人に直接確認せずとも表見代理の「正当な理由」が認められ得ること、及び借入の手段を一任された場合は処分権限も含むと解されることを示した。 第1 事案の概要:上告人(本人)は、訴外Dに対し、本件田を担保として金員を借り入れることを委任し、そ…
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…
事件番号: 昭和41(オ)802 / 裁判年月日: 昭和46年12月16日 / 結論: その他
甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。
事件番号: 昭和48(オ)792 / 裁判年月日: 昭和50年10月29日 / 結論: 棄却
本件農地買収処分には、買収令書の交付に代わる公告手続に瑕疵があつたが、所論の買収令書の交付によつて右瑕疵が補正されたので、右買収処分は有効である。