判旨
双務契約の当事者一方が、登記抹消義務や電話加入権の名義変更義務といった自己の債務を履行しない限り、他方の当事者は対価関係にある割賦金の支払を拒絶することができる。
問題の所在(論点)
売買契約において、売主側の登記抹消義務や電話加入権名義変更義務と、買主側の割賦金支払義務が民法533条の同時履行の関係に立つか。
規範
双務契約において、当事者双方の債務が対価的意義を有する関係にある場合には、民法533条に基づき、一方がその義務を履行(または履行の提供)をしない限り、他方は自己の債務の履行を拒むことができる。この同時履行の抗弁権は、主たる給付義務のみならず、契約の趣旨に照らし対価関係にあると認められる登記義務等の付随的義務についても認められる。
重要事実
売主D社らは、買主らとの土地建物売買契約に基づき、土地建物の引渡し、所有権移転登記、二重登記の抹消、および割賦金が一定額に達した際の電話加入権の名義変更手続を行う義務を負っていた。これに対し、買主らは割賦金を支払う義務を負っていた。しかし、D社らは相当期間を経過しても二重登記の抹消を完了せず、また電話加入権の名義変更手続も行わなかった。そのため、買主らは爾後の割賦金の支払を停止した。
あてはめ
本件契約の趣旨に照らせば、D社らの負う「遅滞なき登記抹消義務」および「電話加入権の名義変更義務」は、買主らの「割賦金支払義務」と対価的な関係に立つ。D社らがこれらの義務を履行しないことは履行遅滞にあたり、対価関係にある債務を負う買主らは、D社らが義務を果たすまで支払を拒絶することができる。したがって、買主らが割賦金を支払わなかったとしても、それは正当な抗弁権の行使であり、債務不履行にはならない。
結論
売主らが登記抹消や名義変更義務を履行しない限り、買主は割賦金の支払を拒むことができ、支払を停止しても債務不履行責任を負わない。
事件番号: 昭和31(オ)678 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続…
実務上の射程
双務契約における同時履行の範囲を、単なる目的物の引渡しだけでなく、登記義務等の付随的義務にも広げて認める際の根拠となる。実務上は、契約の全体的な趣旨から各債務が「対価的意義」を有するかを認定する際の先例として活用できる。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
事件番号: 昭和24(オ)113 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係に立つ債務において、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するには、自己の債務の履行を提供した上で催告することを要し、履行の提供を伴わない解除は効力を有しない。 第1 事案の概要:不動産の売主(上告人)と買主(被上告人)との間で本件売買契約が締結された。本件契約において、買主の残代金支…
事件番号: 昭和33(オ)767 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記手続において、代理人が本人及び相手方の双方を代理する場合であっても、それが既に成立している法律関係に基づく登記義務の履行であるときは、民法108条本文の禁止する双方代理には当たらない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の不動産取引に関連し、特定の書面(丙第2号証)が上告人の意思に基…