判旨
同時履行の関係に立つ債務において、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するには、自己の債務の履行を提供した上で催告することを要し、履行の提供を伴わない解除は効力を有しない。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある双務契約において、自己の債務の履行を提供することなくなされた催告及び解除の意思表示によって、相手方の履行遅滞を理由とする契約解除が認められるか。
規範
双務契約において同時履行の抗弁権(民法533条)が成立している場合、一方が相手方の履行遅滞を理由として契約を解除(民法541条)するには、自己の債務の履行の提供(民法492条、493条)を継続して行い、相手方を履行遅滞の状態に置く必要がある。履行の提供を欠いた催告及び解除の意思表示は、特段の事情がない限り、適法な解除としての効力を生じない。
重要事実
不動産の売主(上告人)と買主(被上告人)との間で本件売買契約が締結された。本件契約において、買主の残代金支払義務と売主の移転登記手続完了義務とは同時履行の関係にあった。売主は、自己の債務である登記手続の履行の提供を伴わずに、買主に対し残代金の支払を催告し、解除の意思表示を行った。買主はこれに対し、残代金引換での登記請求を求めて本訴を提起した。
あてはめ
本件売買契約の残代金支払と登記義務は同時履行の関係にある。売主が買主を履行遅滞に付すためには、売主自身が登記手続に必要な準備を整え、履行の提供を行うことが不可欠である。しかし、本件において売主が行った解除の意思表示は、履行の提供を伴わないものであった。したがって、買主は依然として同時履行の抗弁権を有しており、残代金の不払について履行遅滞の責任を負うことはない。ゆえに、売主による解除は要件を欠き、無効であると評価される。
結論
履行の提供を伴わない解除の意思表示は無効であり、本件売買契約は有効に存続する。したがって、買主による残代金引換での登記請求は認められるべきである。
事件番号: 昭和27(オ)893 / 裁判年月日: 昭和29年7月27日 / 結論: 棄却
双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。
実務上の射程
契約解除の有効性を争う場面での基本判例である。答案上は、541条の要件検討において「履行の催告」以前に「履行の提供(533条の抗弁権の消失)」が必要である旨を論述する際に用いる。また、一度の提供で足りるのか、解除意思表示の時まで継続が必要かという論点の前段階として、提供の必要性自体を確定させるために引用する。
事件番号: 昭和31(オ)686 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
一 契約解除の前提としての催告が有効であるためには、少くとも催告と同時に相手方が遅滞に付されることを要する。 二 双務契約上の債務の受領遅滞にある者が契約解除の前提としての催告をするためには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。
事件番号: 昭和23(オ)117 / 裁判年月日: 昭和24年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】双務契約において、相手方の代金支払義務の不履行を理由とする履行遅滞の効果を主張するには、自己の負担する反対債務(所有権移転登記義務等)につき、適法な履行の提供を完了していることが必要である。 第1 事案の概要:売主である上告人と買主である被上告人は、山林の売買契約を締結し、残代金4万5000円の支…
事件番号: 昭和35(オ)505 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。
事件番号: 昭和32(オ)444 / 裁判年月日: 昭和35年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】双務契約の当事者一方が、登記抹消義務や電話加入権の名義変更義務といった自己の債務を履行しない限り、他方の当事者は対価関係にある割賦金の支払を拒絶することができる。 第1 事案の概要:売主D社らは、買主らとの土地建物売買契約に基づき、土地建物の引渡し、所有権移転登記、二重登記の抹消、および割賦金が一…