判旨
双務契約において、相手方の代金支払義務の不履行を理由とする履行遅滞の効果を主張するには、自己の負担する反対債務(所有権移転登記義務等)につき、適法な履行の提供を完了していることが必要である。
問題の所在(論点)
双務契約において、自己の債務について履行の提供をしていない当事者は、相手方の債務不履行(履行遅滞)を理由とする法律上の効果(解除権の発生等)を主張することができるか。
規範
双務契約の当事者が、相手方の債務不履行(履行遅滞)を理由として契約の解除や損害賠償を主張するためには、民法533条の同時履行の抗弁権を失わせる必要があり、自己の債務について債務の規定に従った適法な履行の提供(民法493条)を継続して行うことを要する。
重要事実
売主である上告人と買主である被上告人は、山林の売買契約を締結し、残代金4万5000円の支払と所有権移転登記の期日を昭和20年12月20日とする合意をした。しかし、被上告人は当該期日を徒過しても代金を支払わなかった。上告人は、被上告人の代金支払債務の履行遅滞を主張したが、上告人自身が自己の義務である所有権移転登記について、適法な履行の提供をした事実は認定されなかった。
あてはめ
本件において、山林の売買契約は双務契約であり、代金支払義務と登記移転義務は同時履行の関係にある。確定した履行期日を被上告人が徒過したとしても、それだけで直ちに履行遅滞が成立し解除権が発生するわけではない。上告人が履行遅滞の効果を主張するためには、自己の義務である移転登記手続について適法な履行の提供をする必要があるが、上告人は原審において履行の提供をした事実を主張しておらず、その事実も確定されていない。したがって、被上告人の代金債務について履行遅滞の効果を認めることはできない。
結論
自己の債務について適法な履行の提供をしていない以上、相手方の履行遅滞を理由とする契約解除等の請求は認められない。
事件番号: 昭和23(オ)119 / 裁判年月日: 昭和24年10月4日 / 結論: 破棄差戻
売買契約書に「買主本契約ヲ不履行ノ時ハ手附金ハ売主ニ於テ没収シ、返却ノ義務ナキモノトス。売主不履行ノ時ハ買主ヘ既収手附金ヲ返還スルト同時ニ手附金ト同額ヲ違約金トシテ別ニ賠償シ以テ各損害補償ニ供スルモノトス。」という条項があることだけでは、民法第五五七条の適用を排除する意思表示があつたものということはできない。
実務上の射程
同時履行の関係にある債務において、相手方を遅滞に陥れるための要件を明確にした判例である。司法試験の答案上は、541条に基づく解除や不履行による損害賠償を検討する際、同時履行の抗弁権をいかに消滅させるかという文脈で、履行の提供(493条)の有無を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和24(オ)113 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係に立つ債務において、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するには、自己の債務の履行を提供した上で催告することを要し、履行の提供を伴わない解除は効力を有しない。 第1 事案の概要:不動産の売主(上告人)と買主(被上告人)との間で本件売買契約が締結された。本件契約において、買主の残代金支…
事件番号: 昭和23(オ)147 / 裁判年月日: 昭和24年11月8日 / 結論: 破棄差戻
売買は常に時価でなされるとは限らないばかりでなく、特に売買の目的物中に統制価格ある物を含む場合は、統制価格にかかわらずこれより高い時価で売買がなされたものと推定すべきではない。
事件番号: 昭和24(オ)37 / 裁判年月日: 昭和24年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】期限の定めのない債務について履行遅滞を理由とする契約解除を行うには、債権者による履行の催告が必要であり、催告なくしてなされた解除通知は無効である。また、訴訟の最終局面でなされた新たな主張が審理の著しい遅延を招く場合、裁判所はこれを時機に後れた攻撃防御方法として却下することができる。 第1 事案の概…
事件番号: 昭和23(オ)118 / 裁判年月日: 昭和24年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】履行遅滞による解除権の発生には、相当期間を定めた催告が必要であり、当事者の合意によって定められた当初の確定履行期を徒過したとしても、直ちに解除権が発生するわけではない。また、無催告解除の特約が認められない限り、債務者の履行遅滞のみをもって直ちに契約を解除することはできない。 第1 事案の概要:売主…