双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。
反対給付の提供をしないでした催告にもとずく解除の効力
民法541条,民法533条
判旨
双務契約の当事者の一方が、自己の債務の履行の提供をすることなく相手方に履行を催告しても、相手方を履行遅滞に陥らせることはできず、当該催告に基づく解除は効力を生じない。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある双務契約において、自己の債務の履行を提供せずになされた催告に基づき、履行遅滞を理由とする解除をすることができるか。
規範
双務契約において、当事者双方が負う債務が同時履行の関係にある場合、自己の債務の履行の提供(民法493条)をせずになされた履行の催告は、相手方を履行遅滞に陥らせる効力を有しない。したがって、かかる提供のない催告に基づき解除権を行使することは認められない。
重要事実
売主(上告人)と買主(被上告人)の間で、建物および動産の売買契約(代金30万円)が締結された。合意の内容は、買主が売主の負う信用組合への債務を肩代わりして弁済し、抵当権抹消登記を済ませた後、売主が残代金(10万6千円)の支払いと引換えに、建物の所有権移転登記、建物の明渡し、および動産の引渡しを行うというものであった。買主は債務の肩代わり弁済と登記抹消を完了したが、売主は自己の債務(登記・明渡し・引渡し)の履行を提供しないまま、残代金の支払いを催告し、支払がないことを理由に解除を主張した。
事件番号: 昭和24(オ)113 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係に立つ債務において、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するには、自己の債務の履行を提供した上で催告することを要し、履行の提供を伴わない解除は効力を有しない。 第1 事案の概要:不動産の売主(上告人)と買主(被上告人)との間で本件売買契約が締結された。本件契約において、買主の残代金支…
あてはめ
本件売買契約の合意内容に照らせば、買主の残代金支払債務と、売主の所有権移転登記、建物明渡しおよび動産引渡債務とは同時履行の関係にあると認められる。売主はこれらの反対給付について履行の提供をしていない。自己の債務の履行の提供がない以上、買主に対して残代金の支払いを催告しても、買主を履行遅滞に陥らせることはできない。したがって、売主による催告は有効な解除の前提要件を満たさないと評価される。
結論
反対給付の提供を欠いた催告に基づく解除は効力を生じないため、本件解除の主張は認められない。
実務上の射程
履行遅滞による解除(民法541条)の要件として、同時履行の抗弁権を奪うための「履行の提供」が不可欠であることを示した基本判例である。答案上は、541条の要件検討の中で同時履行の抗弁権(533条)が存する場合の帰結として引用する。
事件番号: 昭和31(オ)686 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
一 契約解除の前提としての催告が有効であるためには、少くとも催告と同時に相手方が遅滞に付されることを要する。 二 双務契約上の債務の受領遅滞にある者が契約解除の前提としての催告をするためには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。
事件番号: 昭和29(オ)820 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務が履行されたにもかかわらず、売主が所有権移転登記義務を履行しない場合、買主は売主に対し、当該義務の履行(登記手続)を求めることができる。 第1 事案の概要:上告人(売主)と被上告人(買主)は、昭和23年10月11日、本件建物について代金100万円とする売買契約を締結した…
事件番号: 昭和33(オ)1067 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買において、買主が猶予期限までに残代金を支払わないときは、売主の登記義務の履行を待たずに契約を解除する旨の特約(失権約款)がある場合、その期限の経過により契約は当然に解除される。 第1 事案の概要:不動産の売買契約において、売主(被上告人)と買主(上告人)との間で、残代金の支払について猶予…
事件番号: 昭和33(オ)293 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】元本確定前であっても、債権者、債務者および譲受人の三者の合意がある場合には、特定の当座貸越契約から生じる債権を根抵当権と共に譲渡することが可能である。 第1 事案の概要:上告人とD銀行との間で当座貸越契約が締結されていたが、D銀行、上告人およびE銀行の三者間で債権者の交代による更改および根抵当権移…