判旨
不動産売買において、買主が猶予期限までに残代金を支払わないときは、売主の登記義務の履行を待たずに契約を解除する旨の特約(失権約款)がある場合、その期限の経過により契約は当然に解除される。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある双務契約において、相手方の提供を不要とし、代金支払の不履行のみを条件として契約を自動的に失効させる特約の効力、およびその場合の同時履行の抗弁権の成否が問題となる。
規範
双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行を猶予され、かつ、その猶予期限までに履行をしないときは、相手方が自己の債務の提供をすることなく、当然に契約を解除する旨の合意(失権約款)をすることは有効である。この場合、期限の経過という客観的事実によって、解除権の行使や催告を要さず、直ちに解除の効果が生じる。
重要事実
不動産の売買契約において、売主(被上告人)と買主(上告人)との間で、残代金の支払について猶予期限(昭和28年9月5日)を定めた。その際、買主がこの期限までに支払をしないときは、売主の登記義務の履行とは切り離して、当然に契約を解除する旨の条件付契約解除の合意(失権約款)が成立していた。買主は当該期限までに残代金を支払わなかった。
あてはめ
本件では、残代金支払の猶予期限を定めるに際し、売主の登記義務履行と切り離して、期限内の不払を解除条件とする合意がなされている。このような合意がある以上、民法533条の同時履行の関係はあてはまらず、売主が登記の移転準備等の履行の提供をしていなくとも、期限の経過によって契約解除の効力が生じると解される。上告人が期限までに支払わなかった事実は原審で認定されており、特約に基づき契約は当然に終了したといえる。
結論
本件売買契約は、猶予期限の経過により当然に解除されたものと認められるため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和33(オ)76 / 裁判年月日: 昭和35年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において残代金の支払期日を徒過した際に「当然に契約解除となる」旨の約款が存在する場合であっても、特段の事情がない限り、直ちに無催告で解除の効果が発生するものではないと解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件では、売買契約の当事者間で残代金の支払期日が定められ、当該期日を徒過した場合に…
実務上の射程
同時履行の関係を排除する「失権約款」の有効性を認めた事例である。答案上では、催告なしの解除特約が争点となる場面で、特に「自己の債務の提供」を不要とする明示的または黙示的な合意の有無を検討する際の根拠として用いる。ただし、債務者に酷な結果となる場合は、信義則等により解釈が制限される余地がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和33(オ)963 / 裁判年月日: 昭和37年3月29日 / 結論: 棄却
適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
事件番号: 昭和43(オ)199 / 裁判年月日: 昭和43年11月28日 / 結論: 棄却
不動産の賃貸人が特約に基づき賃借権設定登記をする義務を負つていても、右義務と賃借人の賃料支払義務とを同時履行の関係にたたせる旨の特約がなく、かつ、登記がないため契約の目的を達することができないという特段の事情もない場合には、賃借人は、右登記義務の履行がないことを理由として賃料の支払を拒むことができない。
事件番号: 昭和38(オ)1407 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
請求権保全の仮登記でも、これに基づく本登記がなされたときは、仮登記以後におけるこれと相容れない中間処分の効力を否定する効果を有するものと解すべきであり、所有権移転請求権保全の仮登記以後における所論賃借権の設定も右にいう仮登記と相容れない中間処分たるを失わない(昭和三三年(オ)第八七一号同三六年六月二九日第一小法廷判決、…
事件番号: 昭和37(オ)365 / 裁判年月日: 昭和37年9月28日 / 結論: 棄却
所有権の行使に民法第一条第三項の適用はあるが、所有権の取得に同条項の適用はない。