不動産の賃貸人が特約に基づき賃借権設定登記をする義務を負つていても、右義務と賃借人の賃料支払義務とを同時履行の関係にたたせる旨の特約がなく、かつ、登記がないため契約の目的を達することができないという特段の事情もない場合には、賃借人は、右登記義務の履行がないことを理由として賃料の支払を拒むことができない。
特約に基づき賃借権設定登記をする義務と賃料支払義務との同時履行の成否
民法533条,民法605条
判旨
賃借権設定登記の特約がある場合でも、特約や特段の事情がない限り、賃貸人の登記義務と賃借人の賃料支払義務は同時履行の関係に立たない。賃借人が引渡しを受け、使用収益が可能であれば、登記義務の不履行を理由に賃料支払を拒絶することはできない。
問題の所在(論点)
賃借権設定登記の特約がある不動産賃貸借契約において、賃貸人の登記義務と賃借人の賃料支払義務(民法601条)が同時履行の関係(民法533条)に立つか。
規範
不動産賃貸借において賃借権設定登記をする旨の特約がある場合であっても、①当該登記義務と賃料支払義務とを同時履行の関係に立たしめる旨の特約が存在するか、または②賃借権の登記がないために賃借人が契約の目的を達しえないという特段の事情が認められない限り、両義務は同時履行の関係には立たない。
重要事実
賃貸人(被上告人)と賃借人(上告人)との間で、本件不動産の賃貸借契約の際、賃借権の設定登記をする旨の特約がなされた。しかし、賃借人は既に賃貸物の引渡しを受けて現に使用収益を開始していた。その後、賃貸人が登記義務を履行しないことを理由に、賃借人が賃料の支払を拒絶したため、賃貸人は賃料不払を理由に契約を解除し、不動産の明け渡しを求めた。
事件番号: 昭和23(オ)44 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 債務者が弁済のため現金を債権者方に持参してその受領を催告すればこれを債権者の面前に提示しなくても、現実に弁済の提供をしたものとみるのが相当である。 二 債権者が予め弁済の受領を拒み、たとえ債務者が言語上の提供をしてもこれを受領しないことが明白な場合には、債務者は、言語上の提供をしなくても、履行遅滞の責を負わない。
あてはめ
本件では、登記義務と賃料支払義務を同時履行とする旨の合意は認められない。また、賃借人は既に引渡しを受けて現に使用収益を行っており、登記がないことによって使用収益という賃貸借契約の主たる目的を達することができないわけではない。したがって、上記「特段の事情」も認められず、登記義務の不履行を理由に賃料支払を拒むことは正当化されない。
結論
被上告人の登記義務と上告人の賃料支払義務は同時履行の関係に立たず、賃料不払に基づく契約解除は有効である。
実務上の射程
同時履行の抗弁が認められる範囲を、契約の本旨である「使用収益」に直接影響するか否かで限定的に解釈する判例である。答案上は、登記義務を「付随的義務」と構成し、特約や対抗力の欠如による具体的な支障がない限り、主たる債務である賃料支払義務の拒絶を認めない論理として活用できる。
事件番号: 昭和40(オ)1169 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
無断増改築禁止特約に違反し、借地上の居宅(実測一五坪五合)中九坪五合をバー店舗に改築した場合には、土地賃貸借関係の継続を著しく困難にする不信行為として、右賃貸借契約を即時解除することができる。
事件番号: 昭和33(オ)1067 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買において、買主が猶予期限までに残代金を支払わないときは、売主の登記義務の履行を待たずに契約を解除する旨の特約(失権約款)がある場合、その期限の経過により契約は当然に解除される。 第1 事案の概要:不動産の売買契約において、売主(被上告人)と買主(上告人)との間で、残代金の支払について猶予…
事件番号: 昭和31(オ)748 / 裁判年月日: 昭和33年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約が解除された場合における、既払代金の返還義務と目的物の返還義務は同時履行の関係に立つが、本判決は個別事情によりこれらを否定した。契約解除に伴う原状回復義務相互の同時履行関係の有無が争点となる。 第1 事案の概要:上告人(買主)が売買残代金の支払を怠ったため、被上告人(売主)が売買契約を解除…