甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。
不動産の二重売買における一方の買主のための仮登記の経由と他方の買主に対する履行不能の成否
民法415条,民法543条
判旨
数個の不動産を一括して売買した際、代金一部不履行を理由に契約全部を解除するには、一部不履行により契約の目的を達せられない特段の事情が必要であるが、土地の形状や利用実態から一部のみの解除で利用価値が著しく減少する場合、かかる事情を斟酌すべきである。また、他人の仮登記が存在するのみでは直ちに履行不能とはいえず、契約解除は認められない。
問題の所在(論点)
1. 数個の不動産を一括売買した場合に、一部不履行を理由に契約全体を解除するための要件および「特段の事情」の判断要素。2. 売買目的物に第三者の仮登記が存在することが、直ちに履行不能(解除事由)にあたるか。
規範
1. 数個の不動産を目的とした売買契約において、代金債務の一部不履行を理由に契約全部を解除する場合、未払代金に相当する部分の解除のみでは契約の目的を達することができないという「特段の事情」の主張・立証を要する。2. 民法543条(現542条1項)の履行不能とは、債務の履行が物理的・社会通念上不可能であることを指す。他人の権利移転を目的とする仮登記がなされているにすぎない場合は、将来その抹消の可能性もあり、直ちに履行不能とはいえない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)は、隣接する複数の土地(第一目録および第二目録の土地)を一括して売買した。第一目録の土地は広大で公道に面するが、第二目録の土地は狭小で間口も狭い。代金支払を巡り紛争が生じ、上告人は一部代金未払を理由に全部解除を主張した。一方、被上告人は、第二目録の土地について第三者E名義の所有権移転請求権保全の仮登記がなされたことを理由に、履行不能による解除を主張して違約金等を請求した。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
あてはめ
1. 第二目録の土地は単独では間口が狭く、第一目録の土地と分離されることで利用価値が相当減少することが予測される。このような土地の形状や利用上の不可分性は、一部の支払のみでは契約の実質的目的を達成できないとする「特段の事情」として斟酌しうる。2. 第二目録の土地に第三者Eの仮登記があるとしても、現登記名義人は依然として売主である。買主は売主に対し所有権移転登記を求める支障はなく、仮登記が抹消される可能性も否定できないため、社会通念上履行が不可能になったとはいえない。
結論
1. 一部解除では目的を達せられない特段の事情がある場合は全部解除が可能であり、その判断に土地の形状等の事情を考慮すべきである。2. 単なる仮登記の存在は履行不能にあたらず、これを理由とする被上告人側の解除は認められない。
実務上の射程
契約の不可分性の主張において、単に「不可分の特約」の有無だけでなく、目的物の物理的性質や利用実態(一体利用の必要性)から「目的達成の可否」を論じる際の指針となる。また、履行不能の判断において仮登記の存在だけでは不十分であることを示す実務上重要な基準である。
事件番号: 昭和53(オ)1119 / 裁判年月日: 昭和59年9月20日 / 結論: 棄却
不動産の売買に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利として処分禁止の仮処分を得た仮処分債権者は、売買が無効であつても、右売買によつて当該不動産の占有を開始し仮処分後にこれを時効により取得したときは、時効の完成したのちに右不動産を仮処分債務者から取得した第三者に対し、右仮処分が取得時効に基づく所有権移転登記手続請求権…
事件番号: 昭和42(オ)146 / 裁判年月日: 昭和43年2月1日 / 結論: 棄却
「推認」の語は、証拠によつて認定された間接事実を総合し、経験則を適用して主要事実を認定する場合に用いられる用語法であつて、証明度において劣る趣旨を示すものではない。
事件番号: 昭和43(オ)717 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙…