不動産の売買に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利として処分禁止の仮処分を得た仮処分債権者は、売買が無効であつても、右売買によつて当該不動産の占有を開始し仮処分後にこれを時効により取得したときは、時効の完成したのちに右不動産を仮処分債務者から取得した第三者に対し、右仮処分が取得時効に基づく所有権移転登記手続請求権を保全するものとして、その効力を主張することができる。
売買に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利とする処分禁止の仮処分がその後完成した取得時効に基づく所有権移転登記手続請求権について効力を有するとされた事例
民訴法755条
判旨
売買を被保全権利とする不動産処分禁止仮処分の登記後、当該被保全権利が否定されても、仮処分債権者がその後に取得時効を完成させた場合には、時効取得に基づく登記請求権を被保全権利とする処分禁止の効力が認められる。
問題の所在(論点)
不動産処分禁止仮処分の登記後に、当初の被保全権利である売買が否定された一方で取得時効が完成した場合、当該仮処分に基づき時効完成後の第三者に対して処分禁止の効力を主張できるか。
規範
処分禁止仮処分の登記がなされた場合、当初の被保全権利(売買契約等)が実体法上認められないものであっても、当該仮処分の存続中に別途「取得時効」が完成したときは、その時効取得に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利とする処分禁止の効力が生じる。この効力は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を経由した第三者に対しても主張することができる。
重要事実
上告人A1の無権代理人Dから土地を買い受けたEは、売買を理由に処分禁止仮処分決定を得て、登記を完了した。しかし、Dには代理権がなくEには過失もあったため、売買は無効であった。他方で、Eは当該土地の占有を継続し、仮処分登記後の昭和41年に20年の取得時効が完成した。その後、昭和44年にA2がA1から本件土地を買い受け、所有権移転登記を経由したため、Eを相続した被上告人らがA2に対し、仮処分の効力に基づき登記の抹消を求めた。
事件番号: 昭和49(オ)197 / 裁判年月日: 昭和50年11月28日 / 結論: 棄却
一、農地買収計画についての訴願を棄却した裁決が行政事件訴訟特例法に基づく裁決取消の訴訟において買収計画の違法を理由として取り消されたときは、右買収計画は効力を失うと解すべきである。 二、二重訴訟を解消するために前訴が取り下げられても、前訴の請求がそのまま後訴においても維持されている場合は、前訴の提起により生じた時効中断…
あてはめ
本件では、当初の売買に基づく請求権は否定されるため、仮処分は当初その効力を有しない。しかし、Eは占有を継続し昭和41年に取得時効を完成させている。判例の趣旨に照らせば、時効完成時以降は、時効取得に基づく登記請求権を被保全権利として仮処分の効力が維持される。A2が本件土地を譲り受け登記を具備したのは時効完成後の昭和44年であるから、被上告人らは仮処分の登記をもって、後順位の譲受人であるA2に時効取得の効力を対抗できるといえる。
結論
被上告人らは時効取得を理由に本件仮処分の効力を上告人A2に主張でき、A2は被上告人らに対し所有権取得の効力を対抗できない。
実務上の射程
仮処分の被保全権利と実体上の権利が一致しない場合でも、仮処分の流用(被保全権利の差し替え)を肯定する。司法試験では、時効完成後の第三者(177条の対抗問題)が現れた場面で、仮処分登記の有無が勝敗を決する論理として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)802 / 裁判年月日: 昭和46年12月16日 / 結論: その他
甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
事件番号: 昭和63(オ)115 / 裁判年月日: 平成2年9月27日 / 結論: 棄却
共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる。
事件番号: 昭和55(オ)1140 / 裁判年月日: 昭和57年3月25日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の名義人は、登記上利害関係を有する第三者の承諾書等がないため、仮登記とは無関係に所有権移転登記を経由した場合であつても、特段の事情のない限り、仮登記義務者に対して仮登記の本登記手続を請求する権利を失わず、右仮登記の本登記を承諾すべき第三者の義務も消滅しない。