甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙に譲渡されるものであることを了承し、丙の買受後にはその権利移転を認め、丙の地上の建物の建築許可申請手続に協力し、乙、丙との間に、丁土地につき甲から丙に中間省略により直接所有権移転登記をすることを合意しながら、乙、丙の再三の請求にかかわらず自己の都合で右登記手続を遷延して約四年を経過するうち、右滞納処分がなされるに至つたなど、判示の事実関係があるときは、甲が丙の丁土地の所有権取得につき登記の欠缺を主張することは信義則上許されず、甲の交換契約解除にかかわらず丙の権利は否定されないものと解すべきである。
契約を解除した当事者が第三者の登記の欠缺を主張することが信義則上許されないとされた事例
民法545条1項,民法177条,民法1条2項
判旨
解除前の第三者が民法545条1項但書の保護を受けるには原則として登記を要するが、解除権者が当該第三者の権利取得を了承し、登記手続を不当に遅延させるなどの事情がある場合には、登記の欠缺を主張することは信義則上許されない。
問題の所在(論点)
契約解除により遡及的に権利を喪失すべき当事者が、解除前に権利を取得したものの未登記である第三者に対し、登記の欠缺を主張して土地の返還を求めることが信義則上許されるか。
規範
民法545条1項但書にいう「第三者」として保護されるためには、解除前に新たな利害関係を有することに加え、対抗要件としての登記を具備している必要がある。もっとも、解除権者が第三者の権利移転を承認し、かつ自らの義務である登記手続を不当に遅延させるなど、登記の欠缺を主張することが正義公平の観点から容認できない特段の事情がある場合には、信義則(民法1条2項)に基づき、登記の欠缺を主張して第三者の権利を否定することはできない。
重要事実
上告人AとD社は土地(一)と(二)の交換契約を締結した。その後、D社は(一)を被上告人Bに譲渡し、Aもこれを了承してBの建物建築に協力し、AからBへの中間省略登記の合意もなされた。しかし、Aは分筆登記等の自己の義務を4年間放置し、その間に(二)が公売されたことで交換契約はD社の責により履行不能となった。Aは契約を解除し、未登記を理由にBへ(一)の所有権を主張した。
あてはめ
Aは交換契約により(二)を自ら使用して利益を得ており、Bへの権利移転も了承して登記手続の協力まで約束していた。にもかかわらず、Aは自己の都合で4年間も登記手続を遷延させ、その間に履行不能が生じている。このような経緯からすれば、Aが解除後の原状回復として、自らの不誠実な対応により登記を具備していないBに対し、登記がないことを理由に所有権を否定することは、著しく信義誠実の原則に反するといえる。
結論
AがBに対し、登記の欠缺を主張することは信義則上許されず、Bは登記なくして解除権者Aに所有権を対抗できる。
実務上の射程
545条1項但書の第三者が登記を要するという原則(権利保護要件)を維持しつつ、登記を未了とした原因が解除権者側にある場合の救済法理として機能する。答案上は、まず原則論として登記の必要性を述べた後、解除権者の背信性を事実から拾い、信義則による修正として構成する際に有用である。
事件番号: 昭和43(オ)1091 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
夫は宅地を賃貸し妻はその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦の離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した場合において、賃貸人は右同居生活および妻の建物所有を知つて夫に宅地を賃貸したものである等の判示事情があるときは、借地権の譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する背信行為とは認められない特別の事情があるというべ…
事件番号: 昭和40(オ)186 / 裁判年月日: 昭和43年1月23日 / 結論: 棄却
甲が乙から、建物を建て敷地とともに売却するいわゆる建売りのための土地購入資金を借り受け、丙らに対する右建売り代金から逐次弁済し、残債務決済の方法として、乙に対し右土地の所有権移転登記を経由した場合、乙は、右のように建売り代金から支払を受けたものであることおよび甲が、乙に対する右債務の関係上、一存で丙らに対し移転登記がで…
事件番号: 昭和43(オ)1345 / 裁判年月日: 昭和44年6月19日 / 結論: 棄却
建物保護に関する法律一条二項(昭和四一年法律第九三号による削除前のもの)は、建物の朽廃以外の滅失の場合にも適用がある。
事件番号: 昭和40(オ)163 / 裁判年月日: 昭和41年1月27日 / 結論: 棄却
賃借地の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張・立証すべきである。