乙が甲から不動産を買い受けて登録を経ないうち、丙が甲から右不動産を買い受けて登記をなし、これをさらに丁に売り渡して登記を経たため、乙がその所有権取得を丁に対抗することができなくなつた場合において、丙がその買受当時甲乙間の売買の事実を知つていたというだけでは、丙は乙に対し不法行為責任を負うものではない。
不動産の二重売買における第二の買主が悪意の場合と第一の買主に対する不法行為責任の有無
民法177条,民法709条
判旨
不動産の二重売買において、第二買主が第一売買の事実を知る悪意者であっても、登記を具備すれば原則として適法に所有権を取得する。したがって、単に悪意で登記を経由し第三者に転売したことのみをもって、第一買主に対する不法行為責任を負うものではない。
問題の所在(論点)
不動産の二重買主が、第一売買の事実を知りながら(悪意で)買い受けて登記を備えた場合、それだけで第一買主に対する不法行為が成立するか。
規範
不動産の二重売買において、第二買主はたとえ悪意であっても、登記を備えることで完全に所有権を取得する(民法177条)。そのため、単に悪意で二重売買を行い、登記を取得した後に第三者へ転売したという事実のみでは不法行為(民法709条)を構成しない。不法行為が成立するためには、単なる悪意を超えて、公序良俗に反するような背信的行為等の特段の事情(違法性)が認められる必要がある。
重要事実
第一買主(被上告人)は、売主から本件建物を買い受けたが登記を未了であった。その後、売主の相続人(F)から第二買主(上告人)が同建物を譲り受けて登記を経由した。上告人は、Fが被上告人に対して負っていた売買契約上の債務履行を引き受けたとされる一方、本件建物を第三者(G)に売却し登記を移転した。被上告人は、上告人の一連の行為により所有権取得をGに対抗できなくなったとして、不法行為に基づき損害賠償を請求した。
事件番号: 昭和29(オ)718 / 裁判年月日: 昭和30年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第二の買受人は、自らが登記を具備していなくとも、第一の買受人に対して登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する「第三者」に該当する。 第1 事案の概要:上告人は、係争家屋を被上告人が代物弁済により取得する以前に譲り受けていたと主張した。しかし、上告人は当該譲受について何…
あてはめ
本件において上告人は第二買主として登記を備えており、民法上の原則によれば適法に所有権を取得する。第一買主が所有権を対抗できなくなったとしても、それは対抗要件制度の当然の結果である。原審は、上告人が売主の債務を引き受けた事実等を認定して不法行為の成立を認めたが、かかる事実は当事者の主張がない。単に「悪意で買い受け、登記を経て転売した」という事実のみでは、被上告人の権利を侵害したという違法性を基礎付けるには足りない。
結論
上告人に不法行為責任は成立しない。単なる悪意の二重売買は適法な権利行使の範囲内であり、特段の事情がない限り違法性は認められない。
実務上の射程
二重売買における自由競争の範囲を画した判例。答案上では、背信的悪意者排除の法理(177条)を検討する際に、単なる悪意では足りないことの根拠として不法行為の成否とともに引用する。特段の事情(債務引受けや積極的な加害意思等)がある場合にはじめて、177条の枠組みを超えた不法行為(709条)や背信的悪意者としての処理が問題となることを示す。
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
事件番号: 昭和28(オ)1350 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
本人の渡米不在中権限を踰越して土地売却の代理行為をした代理人について、本人の実印を所持していた事実の外、後記(判決理由参照)のような事情もあつたときは、民法第一一〇条の代理権ありと信ずべき正当の理由があるものということができる。
事件番号: 昭和50(オ)1148 / 裁判年月日: 昭和51年6月17日 / 結論: 棄却
農地買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により当初にさかのぼつて効力を失つた場合において、被売渡人から右土地を買い受けた者が土地につき有益費を支出していても、その支出をした当時、買主が被買収者から買収・売渡処分の無効を理由として所有権に基づく土地返還請求訴訟を提起されており、買主において買収・売渡処分が効力を失うかも…