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土地売買契約解除権の行使が信義誠実の原則に反し権利の濫用にあたるとされた事例。
判旨
売主が代金全額を受領しながら故意に移転登記を怠り、かつ買主の建物移転義務の遅滞が実質的な価値を失った期限の徒過にすぎない場合に、当該遅滞を理由としてなされた解除権の行使は、信義則に反し権利の濫用として無効である。
問題の所在(論点)
債務者が義務の履行を遅滞している場合において、債権者側にも不誠実な対応があり、かつ履行遅滞が形式的なものに留まる際になされた解除権の行使が、信義則ないし権利の濫用として制限されるか。
規範
債務不履行に基づく解除権の行使であっても、契約締結の事情や解除に至る経緯、当事者の誠実性の欠如、および解除によって相手方が被る不利益の程度に照らし、それが信義誠実の原則(民法1条2項)に違背し、または権利の濫用(同1条3項)と認められる特段の事情がある場合には、その解除は無効となる。
重要事実
土地売主である上告人は、買主である被上告人らから代金全額の支払を受けたが、売却を惜しんで故意に土地所有権移転登記手続を怠っていた。一方、買主側には建物移転義務があったが、その期限の約定は移転補償金を売主に取得させるためのものであり、後に補償金が下りないことが判明して実質的な存在価値を失っていた。売主は、この形式的な期限徒過を理由に契約解除を主張した。
あてはめ
被上告人らが建物移転を遅滞した直接の誘因は、代金受領済みでありながら故意に登記を拒絶した上告人側の不誠実な態度にある。また、建物移転の期限は補償金受領という目的を失い実質的意味を欠いている。このような状況下で、上告人が自らの義務を棚上げし、形式的な不履行を奇貨として契約破棄を図ることは不当であり、これにより買主側が著しい損害を被ることは明らかである。したがって、本件解除権の行使は誠実性を欠くものであると評価される。
事件番号: 昭和36(オ)1080 / 裁判年月日: 昭和37年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利者が権利を行使しないものと信ずべき正当な事由が相手方に生じ、その後の権利行使が信義誠実の原則(民法1条2項)に反すると認められる特段の事由がある場合には、当該権利の行使は許されない。 第1 事案の概要:本判決(最高裁昭和37年11月22日第一小法廷判決)の判文からは、当事者間の具体的な権利関係…
結論
上告人による本件契約解除の意思表示は、信義誠実の原則に違背し、権利の濫用として無効である。したがって、契約は依然として存続する。
実務上の射程
契約上の解除要件を形式的に満たしている場合であっても、解除権行使が「不当な目的」や「自己の義務違反」を背景とする場合には、民法1条を根拠にその効力を否定できることを示した事例。答案では、解除の要件充足性を検討した後の「抗弁」あるいは「再抗弁」として、信義則違反の具体的事実を摘示する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
事件番号: 昭和27(オ)108 / 裁判年月日: 昭和28年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の条件が成就するまでの間、一時的に所有権を移転させる合意は仮装のものに過ぎず、真実の所有権移転の効力は生じない。また、他主占有権原に基づき、かつ善意等の要件を欠く場合には、取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:被上告人と訴外Dとの間で、本件不動産の所有権移転契約が締結された。しかし、その実…
事件番号: 昭和37(オ)1058 / 裁判年月日: 昭和38年5月23日 / 結論: 棄却
甲の乙に対する所有権移転登記が抹消されて甲が登記名義を回復したとき甲は丙に対し売買を原因とする所有権移転登記をせよとの丙の請求は、将来の給付請求として許される。
事件番号: 昭和36(オ)11 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭の価値が経済的情勢の変化により相対的に増大したとしても、債務者が履行を怠った金額自体の価値も同様に増大している以上、当該債務不履行に基づく契約解除は信義則に反しない。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、相手方との契約において金2,943円の支払債務を負っていたが、その履行を怠った。当時、金…