米国に移住のため在日財産処分の必要に迫られた者が渡米の日とにらみ合せて売買代金支払および登記手続履行の日時を定めて建物の売買契約をした場合でも、右期日までに代金支払がなされなければ相当の不便を感じることが推測されるだけで売買の目的を達しえない事情までは認められない以上、これを定期行為とみることはできない。
民法第五四二条にいう定期行為にあたらないとされた事例。
民法524条
判旨
売買契約において、特定の期日に登記手続と代金支払を同時に行う旨の合意がなされた場合、特段の事情がない限り、それらの義務は同時履行の関係に立つ。また、契約の性質や当事者の意思表示から、一定の期間内に履行されなければ契約の目的を達し得ない事情が認められない限り、民法542条(現行540条の2)の定期行為には該当しない。
問題の所在(論点)
1.特定の期日を定めた取引が、催告なしに解除可能な定期行為(民法542条)に該当するか。2.契約締結後の別個の合意によって、登記義務と代金支払義務を同時履行の関係に立たせることができるか。
規範
1.民法542条(現行540条の2)にいう定期行為とは、契約の性質または当事者の意思表示により、特定の期間内に履行がなされなければ契約の目的を達することができないものをいう。2.本来の売買契約に基づく義務であっても、その後の当事者間の別個の合意によって、特定の義務(登記手続義務と代金支払義務等)を同時履行の関係に立たせることが可能である。
重要事実
被上告人とDは、建物の売買代金を99万2200円とする契約を締結した。その後、Dが8月20日に渡米することが確定したため、同月19日に登記所へ赴き、残代金の支払と建物の所有権移転登記手続(名義は実妹Eとする合意あり)を同時になすべき旨を約定した。上告人は、当該取引が定期行為にあたること、および同時履行の関係が消滅したこと等を主張して争った。
事件番号: 昭和44(オ)330 / 裁判年月日: 昭和44年8月29日 / 結論: 棄却
商人間の土地の売買において、当事者の意思表示により、一定の日時または一定の期間内に履行をなさなければ、契約をした目的を達することができないときは、その売買は確定期売買と解すべきである。
あてはめ
1.本件取引において、判示の期間内に代金の支払を受けなければ取引の目的を達し得ないという特段の事情を肯定するに足りる証拠はない。したがって、本件取引を定期行為と解することはできない。2.事実関係によれば、Dの渡米という事情を背景に、被上告人とDとの間で「登記手続と残代金支払を同時になす」旨の新たな合意が成立している。この合意に基づき、両義務の間には同時履行の関係が成立しており、Dの義務が消滅した、あるいは同時履行関係が否定されるべき事情は認められない。
結論
本件取引は定期行為には該当せず、また、その後の合意に基づき、登記移転義務と代金支払義務は同時履行の関係にあると解するのが相当である。
実務上の射程
同時履行の抗弁権(民法533条)が、契約当初の定めだけでなく、その後の当事者間の合意によっても発生し得ることを示した点に実務上の意義がある。また、解除における定期行為の認定において、単なる期日の指定だけでなく「目的達成の不可否」という実質的基準を重視する姿勢を鮮明にしている。
事件番号: 昭和35(オ)488 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の売買における知事の許可は、売買による所有権移転の効力発生要件に過ぎず、売買契約そのものの成立要件ではない。したがって、農地売買契約の成立日は、知事の許可の日ではなく、現実に売買の合意がなされた日となる。 第1 事案の概要:上告人と被上告人との間で農地の売買契約が締結され、その後、当該売買に基…
事件番号: 昭和37(オ)1058 / 裁判年月日: 昭和38年5月23日 / 結論: 棄却
甲の乙に対する所有権移転登記が抹消されて甲が登記名義を回復したとき甲は丙に対し売買を原因とする所有権移転登記をせよとの丙の請求は、将来の給付請求として許される。
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…
事件番号: 昭和29(オ)361 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
賃借人の居住する家屋の売買で、売主が賃借人に家屋の明渡をなさしめた上これを買主に引渡す約定のある場合、買主が、しばしば売主に対し、賃借人に家屋の明渡をなさしめてこれが引渡をなすべきことを督促し、その間常に残代金を用意し、明渡があればいつでもその支払をなし得べき状態にあつた上、売主が、買主とともに賃借人方に赴き売買の事情…