高圧バルブ口金一〇万個を毎月三万個づつ製作して乙に売り渡す契約をした甲が、納期が全部経過した後、製品三万個だけの引渡の準備をなし、その受領と代金の支払を催告し、これに応じないことを停止条件として契約全部を解除する意思表示をした場合であつても、乙が予め右製品の受領を拒み契約履行の意思のないことを表明していた等、後記判示のような事情(判決理由参照)があつたときは、右催告に基く契約解除は有効である。
反対給付の一部の口頭提供に基く契約解除が有効とされた事例。
民法541条,民法533条,民法493条
判旨
債権者が契約の履行をあらかじめ明確に拒絶している場合、債務者が弁済の準備をして受領を催告すれば、債権者は自己の債務につき不履行の責を免れず、債務者による契約解除は有効となる。
問題の所在(論点)
債権者が契約の履行(受領)をあらかじめ拒絶している場合において、債務者がなすべき履行の提供の程度、および契約解除の有効性が問題となる(民法493条但書、541条)。
規範
債権者が債務の履行をあらかじめ拒絶している場合には、債務者が履行に必要な準備を整え、かつ口頭の提供(受領の催告)をなせば、債権者は債務不履行の責任を負う。この場合、債務者は相当期間を定めて催告した上で、契約を解除することができる。
重要事実
被上告人(売主)は上告人(買主)とバルブ口金の製作・引渡契約を締結した。その後、買主から数量減縮の要求があったが、既に3万個余が完成していたため売主は応じず、製品の受領を求めた。しかし、買主は2万個を超える分について受領を拒絶し、契約履行の意思がないことを表明した。そこで売主は、買主が翻意すれば直ちに引き渡しうる準備をした上で、2週間以内に受領し代金を支払うよう催告し、不履行を条件とする解除の意思表示を行った。
あてはめ
買主は当初、履行の意思がないことをあらかじめ表明し、製品の受領を拒絶していた。これに対し、売主は製品を引き渡しうる状態で準備し、受領の催告という口頭の提供を行っている。買主があらかじめ履行を拒絶している以上、この程度の提供があれば、買主は受領遅滞ないし履行遅滞の責を免れない。売主は相当期間を定めて催告しているため、これに応じなかった買主に対し、解除の意思表示がなされたことで契約は有効に解除されたといえる。
結論
被上告人による契約解除は有効であり、上告人は債務不履行責任を免れない。
実務上の射程
受領拒絶時の履行の提供(口頭の提供)と解除の関係を示す。債権者の拒絶が強固な場合は無催告解除(現行法542条1項2号)の検討も可能だが、本判例は口頭の提供と催告を経た解除の有効性を肯定する構成として重要である。
事件番号: 昭和34(オ)258 / 裁判年月日: 昭和36年5月25日 / 結論: 破棄差戻
原判決末尾添付の契約条項によりなる国有不動産払下げのための売買契約において、売買代金(第一回分納金)納入期限をすぎて代金支払いがないとき、売主たる国は無条件で契約解除できる旨の約定があつても、右契約の趣旨を原判示(原判決理由並びに後記判示参照)のように、右不動産の引渡し、使用可能の前提がそなわらない限り、特段の事情がな…