原判決末尾添付の契約条項によりなる国有不動産払下げのための売買契約において、売買代金(第一回分納金)納入期限をすぎて代金支払いがないとき、売主たる国は無条件で契約解除できる旨の約定があつても、右契約の趣旨を原判示(原判決理由並びに後記判示参照)のように、右不動産の引渡し、使用可能の前提がそなわらない限り、特段の事情がないのにその契約を右代金不払いを理由として無条件で契約解除することはできないものと解釈する原判決は、契約の解釈について審理を尽さない違法がある。
契約の解釈について審理不尽ありとされた事例。
判旨
契約書に明示のない事項を契約の前提条件とするには、書面中にそれを推認させる文言等の特別の事情が必要であり、それらを欠くまま代金不払に基づく解除を信義則違反(民法1条2項)により無効とすることは許されない。
問題の所在(論点)
契約書に明記されていない事情(目的物件の使用可能性等)を理由に、債務不履行に基づく契約解除権の行使を信義則(民法1条2項)によって制限することができるか。
規範
契約書の文言に明示されていない事項を、契約の存立を左右する「前提」や「内容」であると認定するには、契約書中にその旨を窺わせる何らかの措辞(文言)が含まれていることを原則とする。これがない場合、当該事項が契約内容をなすと認めるべき「特別の事情」の証明がない限り、相手方の義務不履行を理由とする解除権の行使が信義則(民法1条2項)により制限されることはない。
重要事実
買主(被上告人)は、国(上告人)との間で、住宅建設を目的として土地建物の売買契約を締結した。物件内には多数の賠償機械が存在しており、その撤去が住宅建設の前提であったが、契約書上は買主の第一回分納金支払後に引渡しを行う旨の条項があるのみで、機械撤去や即時の使用可能状態を保証する明文はなかった。買主は、機械の移動が困難で融資が受けられないことを理由に代金を支払わなかったため、国が契約を解除したところ、原審は「使用可能状態の実現が契約の前提であった」として、国の解除を信義則違反で無効とした。
あてはめ
本件契約書(甲1号証)には、買主が主張する「引渡し前の使用可能状態の実現」や「一般民衆の福祉目的」といった事項について何ら言及がない。契約において重要な前提となるべき事項であれば、当然契約書中にその旨が記載されるべきである。このような文言上の裏付けがないにもかかわらず、単に当事者の主観的な予想や目的をもって、使用不可能な状態での解除を信義則に反すると断じることは、契約解釈の理を尽くしたものとはいえず、法的安定性を欠く。したがって、特別の事情の証明がない限り、国による解除は有効と解される。
結論
買主の代金支払義務不履行を理由とする国の解除権行使は有効であり、これを信義則違反により無効とした原判決は、契約解釈および信義則の適用に関する審理不尽の違法がある。
実務上の射程
契約書という客観的な証拠を重視し、安易な「信義則による解除制限」を戒める射程を持つ。答案上は、明文にない「契約の前提」を主張する場合の認定ハードルが高いことを示すとともに、民法1条2項の適用には契約書の文理に基づいた厳格な解釈が必要であることを論証する際に用いる。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…