判旨
賃貸借契約において賃借人に契約違反の行為があったとしても、それが軽微なものである場合には、信義衡平の理念に照らし、賃貸人による契約の解除は許されない。
問題の所在(論点)
賃借人に契約上の義務違反が認められる場合に、いかなる程度の不履行があれば、賃貸人は信義則上、当該賃貸借契約を有効に解除することができるか。
規範
賃貸借は継続的契約関係であり、当事者間の信頼関係を基礎とするものである。したがって、賃借人に債務不履行の事実が認められる場合であっても、その不履行が軽微であり、当事者間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、信義衡平の原則(民法1条2項)に基づき、賃貸人による解除権の行使は制限される。
重要事実
上告人(賃貸人)と被上告人ら(賃借人)との間で、家屋内の特定部分、施設備品および営業権を含む営業場所の賃貸借契約が締結された。その後、被上告人らに契約違反の行為があったとして、上告人は契約の解除を主張した。しかし、原審によれば、当該契約違反の内容は軽微なものであった。
あてはめ
本件における被上告人らの契約違反行為は、原審が認定した事実関係に照らせば「軽微なもの」に留まる。このような軽微な違反は、賃貸借契約の基礎となる信頼関係を根本から破壊するものとは評価できない。したがって、かかる軽微な不履行を理由として賃貸借契約を解除することは、信義衡平の理念に反し、権利の濫用として許されないと解される。
結論
被上告人らの契約違反は軽微であり、これを理由とする上告人の解除権行使は信義衡平の理念から許されないため、解除の効力は認められない。
実務上の射程
いわゆる「信頼関係破壊の法理」の端緒となった判例の一つである。答案上は、民法541条の解除要件を満たす場合であっても、信頼関係が破壊されたとはいえない特段の事情があるとして、解除を阻止する抗弁(信義則)を構成する際に使用する。本判決は、違反が「軽微」な場合に解除を否定するロジックとして極めて汎用性が高い。
事件番号: 昭和42(オ)1366 / 裁判年月日: 昭和44年7月4日 / 結論: 棄却
国有財産たる土地建物の売払契約において、国が代金支払期限を再度にわたつて猶予した後に、代金支払遅滞を理由として右契約を解除した場合であつても、国が契約の相手方の事業目的の達成を積極的に助成する意図のもとに右契約を締結し、契約締結後においても右意図のもとに相手方に対し相当好意的な態度を示してきたなど判示の事情があるときは…
事件番号: 昭和34(オ)217 / 裁判年月日: 昭和36年6月16日 / 結論: 棄却
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