国有財産たる土地建物の売払契約において、国が代金支払期限を再度にわたつて猶予した後に、代金支払遅滞を理由として右契約を解除した場合であつても、国が契約の相手方の事業目的の達成を積極的に助成する意図のもとに右契約を締結し、契約締結後においても右意図のもとに相手方に対し相当好意的な態度を示してきたなど判示の事情があるときは、右契約解除の意思表示は、信義誠実の原則に反し無効である。
代金支払遅延を理由としてした国の国有財産売払契約の解除が信義則に反するとされた事例
民法1条2項
判旨
債務者の履行遅滞に基づき債権者が解除権を行使する場合であっても、契約締結から解除に至るまでの経緯や債権者が示した態度に照らし、当該解除権の行使が債務者の信頼を裏切るものと認められる特段の事情があるときは、信義則(民法1条2項)に反し無効となる。
問題の所在(論点)
債務者が履行遅滞に陥っており、債権者が相当期間を定めた催告を経て解除権を行使した場合において、当該解除権の行使が信義則(民法1条2項)により制限されるか。
規範
契約の解除権が発生している場合であっても、その行使が信義則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(同条3項)となる場合には、解除の効果は認められない。その判断にあたっては、①契約締結時の経緯と当事者の主観的意図、②履行遅延に至った原因および帰責性の有無、③催告から解除に至るまでの債権者の言動およびこれに対する債務者の信頼の程度、④解除によって債務者が受ける不利益等の諸事情を総合的に考慮すべきである。
重要事実
上告人(国)は被上告人に対し、建物及び土地を売り渡したが、建物内には撤去困難な賠償機械が存在していた。担当官は「撤去は容易」と説明し、被上告人もこれを信頼して契約したが、実際には撤去不能で事業に支障が生じた。被上告人は代金支払を遅延したが、上告人は被上告人の事業を助成する意図から再三にわたり支払期限を延長し、好意的な態度を示し続けた。最後の延長に際しては「期限を徒過すれば解除する」との警告も、これまでの経緯から重要視されていなかった。その後、融資の遅れにより期限を僅かに徒過した際、上告人は転用目的のために突如方針を転換し、解除を通知した。
あてはめ
まず、遅延の原因は撤去困難な機械の存在にあり、これについて容易と説明した上告人にも「一半の責」がある。次に、上告人は被上告人の財政状態を知りつつ助成目的で契約し、再三の期限延長など「相当好意的な態度」を示してきた。このような態度の継続により、被上告人には「今回も猶予される」との正当な信頼が生じていたといえる。それにもかかわらず、上告人が転用という自己の都合により突如方針を翻し、期限徒過後直ちに解除権を行使することは、自ら示してきた態度と矛盾し、被上告人の信頼を裏切るものである。
結論
本件解除権の行使は信義則に反し無効である。よって、本件売買契約は依然として存続する。
実務上の射程
解除権の行使が信義則違反となるための考慮要素(先行行為との矛盾、信頼の裏切り、原因への債権者の関与等)を具体的に示した事例である。答案上は、解除権の発生要件を満たすことを確認した上で、「特段の事情」として信義則違反を論じる際の事実評価の指針として活用できる。
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