双務契約を合意解約し、一方の給付を他方の給付の返還と同時履行関係に立たしめることなく返還を特約したと認定された事例
判旨
双務契約を合意解約した際の原状回復義務は、原則として同時履行の関係に立つが、当事者間にそれを否定する趣旨の特約が認められる場合には、引換給付を要しない。
問題の所在(論点)
双務契約が合意解約された場合の原状回復義務について、民法546条の適用(または類推適用)により常に同時履行の関係が認められるか。特に、特定の債務のみを切り離して履行する旨の合意がある場合の適否が問題となる。
規範
双務契約の合意解約に伴う各当事者の原状回復義務は、民法546条、533条の類推適用により、原則として同時履行の関係に立つ。もっとも、合意解約は契約の一種であるから、公序良俗に反しない限り、当事者間の特約によって特定の義務のみを先行させるなど、同時履行の関係を排除することも可能である。
重要事実
漁網の売買契約において、買主Dと売主(被上告人)が当該契約を合意解約した。その際、買主Dが受領済みの代金のうち199万8000円を売主に返還することを約したが、これと引換えに売主が受領済みの漁網(綿糸漁網370貫等)を返還する旨の約諾はなされなかった。上告人らは、Dの当該代金返還債務を保証したが、代金返還と漁網返還の同時履行を主張して争った。
あてはめ
本件では、合意解約に際して代金の一部を返還する旨の約定がなされているが、これと引換えに漁網を給付する旨を約束した事実は認められない。この事実に照らせば、当事者は漁網の返還とは関連付けずに、代金一部の返還のみを切り離して特約した趣旨であると解するのが相当である。したがって、本件における代金返還債務については、同時履行の抗弁権は認められない。
結論
事件番号: 昭和34(オ)217 / 裁判年月日: 昭和36年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係にある双務契約において、債務の履行場所について明黙の合意が認められる場合、その場所において履行の提供をなさなければ、相手方を履行遅滞に陥らせることはできない。 第1 事案の概要:上告人(売主)と被上告人(買主)は、山林の売買契約を締結し、売買残代金180万円を山林の所有権移転登記と引…
双務契約を合意解約した場合であっても、当事者が特定の義務を切り離して履行する特約をしたと認められるときは、同時履行の関係に立たない。
実務上の射程
合意解約における同時履行の原則を確認しつつ、私法上の合意によるその修正を認めた事例である。答案上は、原則として546条類推適用を指摘しつつ、問題文に「代金だけ先に返す」「目的物の返還は後日」といった事情がある場合に、特約の存否を認定して同時履行を否定する流れで活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)1323 / 裁判年月日: 昭和38年9月13日 / 結論: 棄却
同時履行の抗弁の提出がないかぎり、裁判所は、進んで引換給付の判決をすべきものではなく、また、同時履行の抗弁の提出を促すべく釈明する義務を負うものではない(昭和二七年一一月二七日第一小法廷判決、民集六巻一〇号一〇六二頁参照)。
事件番号: 昭和29(オ)902 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
一 合意解除の場合は、民法第五四五条による原状回復義務は生じない。 二 原告(買主)が、被告(売主)の債務不履行を理由として売買契約の法定解除を主張し、民法第五四五条により、前渡代金の返還を請求している事案において、右法定解除が認められなかつた場合は、たとえ原告の否認する合意解除の事実が認められても、当該訴訟においては…
事件番号: 昭和40(オ)60 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
民法第五四五条第二項の利息債務は、実質は不当利得返還の法理より生ずるもので、同法第五四六条第五三三条所定の同時履行の抗弁権にかかわりなく発生し、ただその債務の履行が右抗弁権の作用をこうむるにすぎないと解すべきである。