約束手形の善意取得者は支払呈示期間内に手形の呈示をしなければ振出人に対する手形請求権を失うと解しなければならない理はない。
約束手形の善意取得者は振出人に対する手形金請求権を失わないために支払呈示期間内に手形の呈示を必要とするか。
手形法38条1項,手形法78条1項
判旨
約束手形の振出人に対する手形金請求権は、適法な支払呈示期間内に呈示がなされなかったとしても消滅しない。また、振出人の支払遅滞責任は、特段の事情がない限り訴状の送達により発生する。
問題の所在(論点)
1.支払呈示期間内に支払呈示がなされなかった場合、振出人に対する手形金請求権は消滅するか。 2.振出人が負う手形金の支払義務について、遅延損害金の起算点はいつか。
規範
約束手形の振出人は主債務者であるため、支払呈示期間内に呈示がなされなかったとしても、振出人に対する手形金請求権を喪失すると解すべき根拠はない。また、手形債務の履行遅滞による遅延損害金は、特段の定めがない限り、履行の請求を受けた時、すなわち訴状の送達等の時から発生する。
重要事実
約束手形の適法な所持人である被上告人が、振出人である上告人に対し、手形金の支払を求めて提訴した。上告人は、支払呈示期間内に適法な呈示がなされていないことを理由に、手形金請求権の消滅を主張したほか、遅延損害金の起算点についても争った。
あてはめ
1.約束手形の振出人は、手形法上、満期における支払義務を負う主債務者(手形法78条1項、28条1項参照)であり、呈示期間の経過は遡及権(同法43条)の喪失事由にはなるものの、主債務者に対する請求権を失わせるものではない。したがって、期間内の呈示を欠いても請求権は存続する。 2.本件において、振出人の支払義務は期限の定めのない債務と同様に解されるところ、本件訴状の送達によって履行の請求がなされたといえる。よって、その翌日から商法所定の年6分の遅延損害金が発生すると判断するのが相当である。
結論
振出人に対する手形金請求権は消滅しない。また、振出人は訴状送達の翌日から遅延損害金支払義務を負う。
実務上の射程
振出人が主債務者であることを再確認する基礎的な判例である。答案上は、支払呈示の欠缺が遡及対象者(裏書人等)との関係では致命的となる一方、振出人との関係では権利消滅事由にならないという区別に注意して用いる。遅延損害金については、持参債務の原則から、呈示がない限り訴状送達時等まで遅滞に陥らないとする実務上の扱いの根拠となる。
事件番号: 昭和34(オ)921 / 裁判年月日: 昭和35年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】約束手形の所持人が、支払呈示期間内に適法な支払呈示をしたにもかかわらず支払を受けられなかった場合、振出人に対して満期以後の利息(遅延損害金)を請求できる。 第1 事案の概要:約束手形の所持人(被上告人)が、手形上の権利に基づき、支払呈示期間内に振出人(上告人)に対して支払の呈示を行った。しかし、振…