判旨
約束手形債務の振出人が遅延損害金支払義務を負うためには、所持人が満期後に手形を呈示しなくても、裁判上の履行を求める訴状の送達があれば足りる。
問題の所在(論点)
約束手形債務の振出人が遅滞の責任を負うために、満期後の手形の呈示(手形法77条1項3号、38条)が不可欠か、あるいは訴状の送達をもってこれに代えることができるか。
規範
約束手形債務につき振出人が遅延損害金支払義務を負うためには、満期後の手形呈示を欠く場合であっても、裁判上で当該債務の履行を求める趣旨の訴状が送達されれば、履行の請求があったものとして遅滞の責任を負う。
重要事実
上告人は約束手形の振出人であり、被上告人はその手形所持人である。被上告人は、満期後に手形の呈示を行わないまま、上告人に対して約束手形債務の履行を求める訴えを提起した。これに対し上告人は、手形の呈示がない以上、遅延損害金の支払義務は発生しないと主張して争った。
あてはめ
手形債務は本来、持参債務ではなく取立債務であるため、遅滞に陥らせるには手形の呈示を要するのが原則である。しかし、裁判上の履行請求である訴状の送達は、債務者に対して履行を強く促す明確な意思表示であり、債務の内容を特定して履行を求める点において呈示と同様の機能を果たす。したがって、事実上の手形呈示が先行していなくとも、訴状の送達により振出人は履行遅滞の責を免れないと解するのが相当である。
結論
手形所持人が満期後に手形を呈示しなくても、裁判上の履行を求める訴状の送達があれば、振出人は遅延損害金の支払義務を負う。
実務上の射程
手形法上の呈示期間経過後であっても、振出人に対する遡及権は失われない(主たる債務者のため)。本判例は、この場合の遅滞損害金の発生時期を「訴状送達時」とする実務上の準拠枠組みを提供しており、民法上の履行の請求(催告)の特則的な運用として位置づけられる。
事件番号: 昭和38(オ)242 / 裁判年月日: 昭和40年1月19日 / 結論: 棄却
約束手形の善意取得者は支払呈示期間内に手形の呈示をしなければ振出人に対する手形請求権を失うと解しなければならない理はない。