約束手形が法定の呈示期間内に呈示されなかつたときは、裏書人の遡求義務は、右呈示期間の徒過によつて消滅する。
約束手形の呈示期間の徒過と裏書人の遡求義務の消滅
手形法53条,手形法77条
判旨
約束手形が法定の呈示期間内に支払呈示されなかった場合、呈示期間の徒過によって裏書人の遡求義務は消滅し、その後手形を買い戻して所持人となった前手であっても、当該裏書人に対して遡求権を行使することはできない。
問題の所在(論点)
法定の支払呈示期間内に呈示がなされなかった場合、裏書人の遡求義務は消滅するか。また、その後に手形を受け戻した所持人は、当該裏書人に対して遡求しうるか。
規範
手形法77条1項3号、53条1項に基づき、約束手形の所持人が法定の支払呈示期間(同法38条1項)内に支払呈示を怠ったときは、振出人を除くすべての手形債務者(裏書人およびその保証人)に対する遡求権を喪失する。この遡求権喪失の効果は絶対的であり、その後に手形が譲渡または買い戻されたとしても、遡求義務が復活することはない。
重要事実
振出人Dは、満期を昭和42年1月20日とする約束手形を上告人に振り出した。上告人は、昭和41年10月16日、本件手形を被上告人に裏書譲渡した。被上告人はこれをさらにG銀行に裏書譲渡したが、G銀行が支払場所に本件手形を呈示して支払を求めたのは、満期から約半年が経過した昭和42年7月8日であった。支払を拒絶されたため、被上告人はG銀行から手形を買い戻し、裏書人である上告人に対して遡求権を行使した。
あてはめ
本件約束手形の満期は昭和42年1月20日であるから、適法な支払呈示期間は満期当日またはこれに続く2取引日以内である。しかし、実際に支払呈示がなされたのは同年7月8日であり、法定の呈示期間を著しく徒過している。手形法53条1項の規定によれば、この呈示期間の徒過により、裏書人である上告人の遡求義務は当然に消滅する。したがって、被上告人がG銀行から本件手形を買い戻して再び所持人となったとしても、既に遡求義務を免れた上告人に対して遡求権を行使することは認められない。
結論
上告人の遡求義務は消滅しており、被上告人の上告人に対する請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
手形の呈示期間徒過による遡求権喪失の原則を厳格に適用した基本判例である。答案上は、遡求義務の存否を論じる際、まず法定呈示期間内の呈示の有無を確認し、呈示がない場合には53条1項を根拠に裏書人の義務消滅を直ちに導く。実務上も、裏書人に対する遡求を維持するためには、期間内の呈示が不可欠であることを示す射程の長い判断である。
事件番号: 昭和38(オ)242 / 裁判年月日: 昭和40年1月19日 / 結論: 棄却
約束手形の善意取得者は支払呈示期間内に手形の呈示をしなければ振出人に対する手形請求権を失うと解しなければならない理はない。