自作農創設特別措置法による宅地附帯買収および売渡の対象となつた二筆の宅地の各一部が第三者の賃借地であつたことが判明し、しかもその賃借地の境界が不明瞭なため、知事が全部の売渡処分を取消した場合につき、そのうち一筆についての取消処分は適法、他の一筆についての取消処分は違法と判断しても、判示の事情のもとにおいては、いずれも相当と認めることができる。
附帯買収された二筆の宅地の各一部に第三者の賃借地が存したことを理由としてその売渡処分全部が取り消された場合にその取消処分を一筆については適法一筆については違法と判定された事例
自作農創設特別措置法15条,自作農創設特別措置法29条
判旨
行政庁が自ら行った瑕疵ある行政処分を職権で取り消すことは、処分の重大な瑕疵を是正する必要性が、経過期間や相手方の信頼保護等の不利益を上回る場合には適法である。特に、他人の権利を侵害するような瑕疵がある場合、処分の維持は法の趣旨に反するため、是正の必要性が高く認められる。
問題の所在(論点)
行政処分の職権取消しにおける制限(信頼保護と公益の衡量)および、複数筆の土地に対する売渡処分を各筆ごとに可分的に取り消すことの可否が問題となった。
規範
行政処分に重大な瑕疵がある場合、処分庁は原則として職権でこれを取り消すことができる。ただし、取消しによって生じる相手方の利益侵害(信頼保護、既得権の喪失)と、瑕疵を是正すべき公益上の必要性(法適合性の回復、第三者の権利保護)を比較衡量し、後者が優越する場合に限り、相当な措置として是認される。また、一個の処分であっても、内容が可分的であれば、一部についてのみ取り消すことが可能である。
重要事実
上告人は、自作農創設特別措置法に基づき宅地の売渡しを受けたが、その土地の一部には以前から第三者Dが所有・居住する家屋が存在し、Dが賃借権を有していた。処分庁(被上告人)は、売渡しから8年経過後、本来売渡対象外である他人の権利存続地を含めて売却した瑕疵を是正するため、当該土地全筆の売渡し処分を取り消した。上告人は、長年の経過による信頼や、買収処分の取消しを伴わない売渡取消しの不当性を主張して、その適法性を争った。
事件番号: 昭和29(オ)377 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が重大かつ明白でない限り、当該処分は当然無効とはならず、適法に訴訟等で取り消されない限り有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人は、大正10年頃から昭和10年頃まで賃借権に基づき本件土地を耕作していた。自称によれば、昭和10年にDへ転貸し…
あてはめ
本件売渡しは、他人の使用権原がある土地を含んでおり、同法15条・29条に照らし重大な瑕疵がある。上告人の協力が得られず取消範囲の特定が困難であったため全筆を取り消したことは、瑕疵を不問に付さないためのやむを得ない措置といえる。また、8年の歳月が経過し上告人が公租を負担していたとしても、取消しは売渡前の賃借関係に復帰させるに留まり、上告人の使用権原自体を当然に奪うものではない。他方、第三者の権利を不当に侵害し法の趣旨に背馳する状態を是正する公益的必要性は極めて高く、比較衡量の結果、本件取消しは失当ではない。さらに、各筆の瑕疵は別個に関連なく存在するため、各筆ごとに可分的に取消権を行使することも可能である。
結論
本件売渡しの職権取消しは、是正の必要性が上告人の不利益を上回るため適法である。上告を棄却する。
実務上の射程
行政処分の職権取消しの限界に関するリーディングケースである。答案では、①瑕疵の重大性、②是正の必要性、③相手方の信頼(期間経過や不利益の程度)を具体的事実から抽出して衡量する際の枠組みとして活用する。また、処分の可分性についても言及可能な射程を有している。
事件番号: 昭和29(オ)550 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。
事件番号: 昭和30(オ)138 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が法律上の手続規定に違反してなされた場合であっても、その瑕疵が当然に処分を無効とするものではなく、出訴期間内に取り消されない限り、公定力により有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分が行われた際、買収令書が真の所有者である上告人ではなく、…
事件番号: 昭和29(オ)317 / 裁判年月日: 昭和31年6月1日 / 結論: 破棄差戻
一筆の農地を四人に分割して売渡した場合において、各人に対する売渡区域が売渡通知書に特定されていなくても、その後に右農地が売渡通知書の趣旨に従つて分筆登記され特定されたときは、さきの売渡処分が無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和37(オ)1349 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第四七条の二が憲法第三二条に違反しないとする昭和二四年五月一八日大法廷判決(昭和二三年(オ)第一三七号、民集三巻六号一九九頁)の趣旨に徴し、右法規と同趣旨の行政事件訴訟特例法第五条は、憲法の同条規に違反しないものといわねばならない。